企画小説
「三木、花びらがついてるよ。かわいいね」

 そう言って、なんでもないように近づいてくる手。先輩は少しだけ私に近づいて、笑って髪についているといった花びらを取った。黄色い花びらだった。私はその花がどの花のものだかよくわからなかったが、先輩は花びらを嬉しそうに見ていた。
 隣から先輩のかおりがする。最近は暑い日が続き、汗もよくかく。私も先ほどまで実技の授業だったため、少し汗をかいている。先輩にいやなにおいだとは思われないだろうか、喜八郎が水浴びをしていたのを見たが私もすればよかったと後悔しだす。しかしもし水浴びをしたらこうして先輩とお話をすることはなかったかもしれない。

「名字先輩、その、かわいいというのは少し……」
「あぁ、ごめん。男の子だものね」

「ねぇ、三木。この花びら私にくれない? 押し花にしたいの。他にも押し花にする花があるんだけど、少し色が寂しくてね」
「それはもちろん、構いませんが。なんだったら、もっといいものを探してきましょうか」
「ふふ、わかってないなぁ。これがいいの」

 先輩は嬉しそうに笑った。私には、どうしてその花びらが良いのかがわからなかった。しかしなんだか恥ずかしかった。恥ずかしくて、その場を離れたくて、しかし先輩ともっと二人きりで話がしたかった。いつだって先輩と話していると他の学年が会話に入ってくるからだ。尊敬している潮江先輩にすら名字先輩と話すことを譲りたくはなかった。名字先輩も、私と話している時はもう少し私の方を見てくれればいいのにとか、そんなことを思ったりもした。見られていたら見られていたで、私は何も話せずに逃げてるように話を切り上げてしまうかもしれないのに。

 私は先輩といると、とても我が儘な人間になってしまう。矛盾した気持ちと嫌な気持ちと、先輩が好きという気持ちと恥ずかしいと思う様々な気持ちが身体中を駆けまわる。何かきっかけがあったら、溢れ出て、爆発してしまうそうなほどに先輩と話す度に大きく成長してゆく。


「黄色い色が好きなの。この花びらの色とは少し違うけれど、三木の髪の色も好きよ。目の色も、全て好きよ。私は、貴方を見るたびにそう思うわ」

 先輩が笑った。
 私はきっと、真っ赤になっているだろう。


恋の色は何色(10000hit企画)
20130630
20150510 修正
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