企画小説
 泥だらけになった姿で泥だらけの喜八郎と会った。
 喜八郎は塹壕を掘って、私は一年は組のよい子たちと一緒に遊んで泥だらけになった。雨が降ったあとの運動場はぐちゃぐちゃだった。


「また何かあったんだ」

 喜八郎はぽつりと、私の腕を掴んでそう言った。彼の言葉には少しだけ苛立ちが含まれているようだった。
 確かに、彼の言うとおりだった。実習で、へまをした。
 私の失敗で友達が怪我をしてしまったのだ。何年ここにいるんだ、もうやめてしまえ、心のどこかでそんな声がしたような気がした。怪我は大したことがないとそう本人から言われたが、それで気持ちが変わることはなかった。
 失敗をする度に、私はその気を紛らわすように全く別のことをしようとする。今回の、は組との遊びもそうだった。桃色がわからないくらいに泥だらけにしたかった。自分の失敗から逃げ出すことにあの可愛い後輩を使ったような気がして、途中で戻ってきてしまったところを彼に見つかったというわけだ。

「最低で、馬鹿で、どうしょもないんだよ。自分が……大嫌い」
 その言葉を発した途端、彼は私をひっぱりすぐ横にあった塹壕へ私を落とした。
 受け身も取れずに少し頭を打った。驚いて、声も出なかった。

「おやまぁ。僕は、名前のこと好きだけど、どうして本人が嫌いだというんだろう」

 喜八郎は少しだけ寂しそうな顔をした。

「今日、僕のところで泣いてくれるのかと思ってた……。ここなら誰も見てないよ。泣いてしまいな。そして泣き終わったら、僕のところに来てね」
いっぱい抱きしめて、好きと言ってあげるから。

 そう言って喜八郎は去っていった。土の匂いで溢れているこの空間。雨のせいでどろどろになっていて、普通だったら気持ちがわるいけれど、今の私にはそれが不快ではなかった。
 さっきまで少しも出なかった涙があふれ出てくる。涙と泥でぐちゃぐちゃになった顔でも、喜八郎は好きと言ってくれるのだろうか。

 私はこの学園が大好きだった。失敗が多くても、自ら学園を去ることなんて、したくなかった。もう少し頑張ろう。失敗を恐れずに、自分に負けないように。くじけそうになったら、また彼の力を借りよう。

「名前、雪が降ってきたよ。そろそろ出ておいで」
 優しいその声が私の名前を呼んでくれる限り、私は転んでも立ちあがれる気がした。

冬の空に泣く(5000hit企画)
20130218 加筆
20150510 修正
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