企画小説
企画「高校生活とは、青春とは何色でしょうか」後日


 星がきらきらと輝いていて、月明かりが優しい空を見上げると唯一わかる星座が今日も冬の空にあった。白い息が出ても、首が痛くなっても、私はその星座を見つづけた。

「おい、名前」
 ふと、腕を掴まれて名前を呼ばれた。知っている声に、知っている香りがした。彼を見つけるたびに嬉しくなって、彼が私の名前を呼ぶたびに私は笑顔になれた。今年の夏から少しだけ変わった彼との距離はあれから変化なくそのままだが、私はそれで満足だった。好きという気持ちが彼に伝わっていて、彼も私の事が嫌いでないというだけで満足だった。

 手を繋がなくても、キスをしなくても、別に私はよかったのだ。
 しかしどうしてだか、今日は違った。彼と私の手は触れていた。待ったか、はやく帰ろうと奉太郎が言ったあと、彼は普段からしている事のようにスムーズに私の手を掴んでいた。少しすれば離れてしまいそうな力加減ではあったが、確かに彼の体温を感じていた。それは意識すればするほど恥ずかしいものであったが、素直に嬉しかった。


「奉太郎」
 彼の名前を呟けば、口から白い息が出た。
 彼の名前をもう一度呼んでも反応がなく、触れていた手を少し強く握ると彼はびくりと反応して私の顔を見た。彼は少しむっとした顔をしていた。しかし恥ずかしそうでもあった。彼は頬を染めてすぐに視線を戻して私の手を引っ張って前へ進んでいく。私はその一つ一つの仕草がとても愛おしいと思った。
 時々一緒に下校するようになって、何度この道を通っただろうか。何度もあったような気もするし、別にそこまで多くもないような気もした。しかし、手を繋いで一緒に帰るのは初めてだった。

「奉太郎はむっつりだけど、こういうことはあんまりしてこないと思ってた。小さい時は、普通だったのにね。どきどきする」
 学校の帰り道、何度も何度も通った道が、今日は少しだけ違った道に思えた。奉太郎とも何度も通ったことのある道のはずなのに、どうしてだろうか。これはきっと、夜道だからという理由だけではないのだろう。

 星が綺麗だなぁと呟けば、月も綺麗だなと奉太郎が呟いた。

「うん。月が綺麗ですね奉太郎」
 からかうようにそう言えば、奉太郎は満足したように少し笑ってゆっくりと指を絡めた。

title by 魔女のおはなし
冬の空に泣く(5000hit企画)
20150510 修正
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