小説
久しぶりにキャッチボールをしてみた。下手くそだなぁと笑われたが仕方がない。何年ぶりだと思っているんだ。
「準太ひどいな」
「本当の事を言ったまでだよ」
準太の髪が夕日に照らされてきらきら光ってる。
彼は私の下手くそなボールを簡単に取る。その時の音が私が取る時よりも気持ちいい音で子どもの時からそれがすごく羨ましかった。何度も彼のような音をさせたくて真似をするのに出来なかった。どうしてだろうと彼に聞いてもいつだって野球をもっと好きになればこんな音になるんだぞって言われた。そんなはずないって私は怒ったけど今は彼の言ったことが間違いではないと知っている。彼は子どもの時から野球が好きだった。
「久しぶりにどうしたの。彼女でも出来たの」
「今は野球が恋人ですから」
ははっと準太は面白そうに笑った。
自分で質問しておきながら内心は不安でいっぱいだった。年を重ねるごとに彼はかっこよくなっていく。隣でいつも彼を見て、好きという気持ちを日々隠していた。大きくなった気持ちを隠すのは限界にきている。
「でも私、そういうの好き。野球してる子って皆きらきらしてる。私いつもきらきらしてる皆を見てたよ」
野球を小さい頃からしている準太が近くにいたから、自然と野球が好きになった。準太が試合に出ると聞けば必ず見に行った。いつもきらきらしている準太がいた。勝っても負けても準太はいつもきらきらしていたのだ。
「準太はいつもかっこよかったよ。むかつくくらいにね」
「そりゃどうも」
空が綺麗なグラデーションをしていて、もう一番星がきらりと光っていた。久しぶりに部活がお休みだったのに私とこんなことして良かったのだろうか。今日は一日彼と一緒に過ごしていた。
「幼なじみとしては嬉しいけど嫌だったよ。だってキャーキャー言われんじゃん。だって私好きだもん。準太のこと」
そう勢いに任せて言いながらボールを投げる。するとぽとりと草の中に落ちるボールの音が聞えた。私の大好きな音がしない。ちょっとー野球部でしょと言って準太の方を見れば彼は座り込んでしまっていた。
「何してんの」
近付いて手を差し出す。しかし準太はグローブで顔を覆っているために私の差し出した手に気付かない。
「あれ、照れてる?」
「ばっか」
「告白くらい、慣れてんでしょ」
「名前にされるとは思わなかった」
好きって言われんのってこんなに嬉しいんだなって彼は言った。グローブを少しずらして私の顔を見る準太は今までにないくらい頬を染めてそして笑った。学校にいる時とか部活の時の顔とは違う。幼なじみの高瀬準太の笑顔だった。
20130328
20150402 修正