小説
 今月の頭に買ったワインレッドのワンピース。
 可愛らしすぎず、普段少しお洒落をしたいと思う時に気軽に着れそうなそのワンピース。少しだけ値段は高かったけれどお店で見つけたとたん欲しくて欲しくてたまらなくて買ってしまったものだった。
 秋物の洋服はどうしてあんなにも心惹かれる服が多いのだろう。見ているだけで幸せになる洋服だと私は思っている。落ち着いた色が多く、それでいて可愛いからだろうか。飾っておくだけでも可愛い。しかし、やはり自分自身で着て出掛けるのが一番だ。

「というわけで私と出掛けよう。久しぶりの休みで休みたいっていうのもわかるんだけど、あんたサッカー関係のもので買いたいのがあるって言ってたでしょ」

 電話先が反応する前に言いきらなければ口うるさく言われるはずだ。きっと、なんで俺がお前なんか云々と。サッカーの話を最後にしっかりと、しかも電話先の相手が以前話していた話題を付け加えればほら、向こうはもう悔しそうにしている。
 勝った、とそう思っていれば本当に悔しそうに承諾してくれた。


「お前友達いないのかよ」
 待ち合わせ場所ではそう憎たらしい言葉を言いつつも、しっかりと待ち合わせ時間五分前に待っている彼がいた。
「真田一馬くんは、デートに誘ってくれる女の子もいないんですかぁ」
「ちょっ、まっ、フルネームはやめろ」

 一馬とは幼なじみであった。
 私はあまりサッカーが詳しい方ではないが、小さい頃から一馬が試合をすると言ったら試合を見に行ったし、スパイクを一緒に買いに行こうと言われればついていった。しかし試合を見ても一馬に説明されてもサッカーの知識はあまり身につかなかった。というか、興味がなかったのだ。一馬がいるから、という理由で試合を見に行き、一馬が行こうといったから一緒に買い物に行った。

 彼が中学に入っても、なんたら選抜とやらに選ばれても、その関係はずっと変わらなかった。一馬は私にサッカーを知ってほしいようだったが、それでも私はあまり知ろうとは思わなかった。
 私は一馬が好きなのだ。別にサッカーが好きなわけではない。

「というか、お前なんでそんなさ、で、デートみたいな服なの」
 新しいワンピースを着て、お気に入りの靴を履いて……。一馬が言うとおり私の格好は女の子らしいものだった。普段彼と出掛ける時には基本スカートは履かないためか、少しだけ顔を赤くしながら聞いてきた。

「だから、電話でワンピースが着たいから出掛けたいって言ったでしょ」
 そうだっけ、と少しだけ頭をかいた一馬はそれでも何か言いたそうに困ったような、でも怒ったような顔を繰り返していた。一馬はこんな器用な表情ができたっけ、と考えていると一馬は決心したように私の腕を掴んだ。

「名前、今日はお前の行きたいところに行ってやるよ」
 顔をあかくしながらも笑って一馬は私の腕を引っ張った。あぁ、やっぱり私は一馬が好きなんだなぁと少し体温の高い彼の手を見る。

「どうせ引っ張るなら手を繋ごうよ」
 そう言えば耳まで真っ赤にして、馬鹿と怒られた。

title by 魔女のおはなし

20150402 修正
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