「また怒られたんですね」 聞こえた声に、姫はびくりと肩を跳ねさせる。振り返った先に居るのは呆れ顔のアレン。 『な、なんのこと?』 「とぼけないでください、姫。貴女が医務室から走って出ていったのは知ってるんですよ」 『う……』 バツが悪そうに視線を反らし、姫はぽつりと言った。 『…仲間が居たんだもん』 「………」 『仲間の前じゃ、私のイノセンスは使えない』 姫のイノセンス。小型爆弾を銃から発射するそれは、使用する度周りに多大な影響を及ぼす。生じる爆風は凄まじく、気を抜いていると大人でさえ吹き飛ばされるのだ。 今までに何度か一緒に任務に赴いたエクソシストを傷付けてしまったことがある。 「だから、囮になったんですか。仲間からAKUMAを引き離す為に」 『うん。そうすれば気兼ねなくイノセンスも使えるし』 「……失敗していたらどうなっていたと思ってるんですか」 『え?』 反らしていた視線を戻すと、アレンはつらそうな表情で姫を見つめていた。 『アレン…?』 「姫の言い分は分かります。でも、それで毎回姫が傷付いていたら意味ないでしょう!」 『いや、私は…』 「…姫は優しすぎます。仲間なんだから、そんな気を遣わなくていいのに」 『…優しいのはアレンの方だよ。ありがとう。だけど私は大丈夫だから』 怪我をして帰る度に怒られる。 リナリーに、ラビに、神田に、科学班のみんなに。 そして、アレンに。 そうやって思ってもらえるだけでどれだけ嬉しいか。だから、これでいい。自分のイノセンスなのだから、自分でなんとかしなくてはならない。 アレンが押し黙る。それからため息を一つ。 「…本当に姫は頑固ですね」 『今更ね』 「仕方ありません。じゃあせめて僕のお願いを聞いてくれませんか?」 『いいよ』 「───僕を、悲しませないでください」 予想外な言葉に姫返事出来なかった。アレンは続ける。 「僕は貴女が傷付くのが嫌です。貴女がそうやって一人で抱え込むのは悲しいです。だから…僕の為に、姫を大事にしてください」 そこまで言ってアレンは静かに微笑んだ。その表情から、言葉から、アレンの気持ちが伝わってきて。 それがあまりにもあたたかいから、思わず泣きそうになってしまった。 『…アレンも大概頑固よね』 「今更ですか?」 ふふ、と笑ったアレンに勝てる気がしなくて、姫は笑った。 優しい君へ『ありがとう。努力するって約束する』 「せめて約束してそれを守る努力をするって言ってくださいよ」 笑うのは同時。その笑顔が傍にあることが、何よりも幸せなことだった。 |