年の差5題



1.あなたの時間を止められたなら(小春+光)



そんなこと、できはしないとわかっているけれど。

「あら、光やないの」
「小春先輩…」
「どないしたの?こないな隅っこで…」
「少し…考え事っすわ」

自主練を終えて部室に戻る前に少し休もうと木陰に入った財前のところへ小春がやってきた。
財前が真っ直ぐ部室へ戻らないのも珍しいことであったし、小春が一人で財前の元へ来るのも珍しいことであった。
そして何より、考え事をしながら自主練をするということ、さらにそのせいで集中できないなど初めてのことであった。

もうすぐ3年生は引退なのだとふと思ったのだ。
聖書と呼ばれる白石も、気配りのできる小石川も、修行僧のような石田も。
避けられないとわかってはいるが、妙に心がざわついた。

辛辣な言葉を吐きながらも彼らが嫌いなわけではなく、むしろ好きなのだ。
目の前にいる小春やパートナーのユウジのことだって、邪険に扱いながらも尊敬していた。
そして、財前を誰より大事にしてくれた、財前の一番大切な人、謙也がいなくなってしまうことを考えると、胸がキリキリと痛んだ。
謙也の時間を止められたら、と思った。

「光」

小春の方を向くと、小春は柔らかい笑みを浮かべた。
眼鏡の奥の瞳が優しい。

「光はアタシ達を…謙也クンを追いかけてこれるから。やから、1年頑張り?」

くしゃり、と頭を撫でられる。
謙也とは違う優しさに涙が出そうになる。
財前は小さく頷いた。


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