ケータイ世代
「悠太ってさぁ、けっこう女子のアドレス知ってるよね」
日曜日。
明日提出の課題をやっていたオレに祐希はそう言った。
「ちょっと待って、何で祐希が知ってんの」
聞くまでもないとは思ったけど。
「え?悠太のアドレス帳を見たから?」
「ですよね」
「30人?くらい?」
ベッドにいる祐希を見たら、アニメージャを広げつつ見てるのはオレのケータイ。
「ちょっと祐希くん。本人いる前で何堂々と見てんの」
「いや、高橋さんのアドレスまだ残ってたらやだなーって思って見てみたわけ」
「祐希くんはプライバシーという言葉を知らないんですか」
「でも高橋さんいっぱいいるし、下の名前わかんないし。
メール残ってるかもって思って見てみようと思ったら鍵かかってるし」
「…ちょっと…もう犯罪者レベルですよ祐希くん」
前の祐希だったらたぶん何人もいる高橋さんのアドレスを全部消してたと思う。
でも、前にオレが怒ったことがあったから学習したんだろう、きっと。
だってねぇ…勝手に消されてたらさすがに激怒ですよ、オレでも。
茶道部に連絡メールまわそうと思ったら、男子のアドレスしか残ってなくてすごい困ったんだからね。
部員のは春に教えてもらえたからよかったけど…
あと、知らないアドレスからメールが入るたび「すいません、間違ってアド消しちゃったんで名前教えてください」って聞かなきゃいけなくて大変だったんだよ、ほんとに。
「だって…悠太が女子とメールしてるとか考えたらやなんだもん…」
さっきまでとちょっと違う声のトーンと、尖ったくちびる。
思わず頬が緩む。可愛いな。
「ふふ」
「…笑いごとじゃないの」
「ごめんごめん」
「悠太アドレス聞きに来る子みんなに教えちゃうじゃん」
「だって断ったら可哀想じゃない」
「茶道部だっていっぱいいるし…」
「そうだねぇ」
「……」
「でも、一番最初は祐希だから」
「え…?」
「アドレス帳開くと最初に出てくるのは祐希なの」
名前は祐希、読み方はアアサバユウキ。
ほらね、先頭。
「メールも電話もすぐにできるでしょ?」
「…ん」
パタン、とケータイが閉じる音。
ゴゾゴゾ布団が擦れる音。
それと。
「ゆうただいすき」
背中に感じる温もり。
「オレもやきもち焼く祐希好きだよ」
「…そゆこと言わなくていい」
降ってくる唇。重なる唇。
愛おしいな。
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アドレスを聞きにやってきた女子に教えてちゃうのが悠太、めんどくさいから教えないのが祐希
2011.04.26
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