君への贈り物

「子桓!」

ようやく退屈だった授業も終わり、足早に大好きな子桓のいる教室へ向かう。
クラスメイトで溢れる中、机の中から教材を取り出し鞄に入れていた子桓を見つけ、ドアの前でたまらず声を張り上げて呼ぶ。もちろんその声に子桓だけではなく、他のクラスメイトも私の方に目を向けた。
喜ぶ子桓が見たかったのに、子桓は顔を青ざめ慌てて私の方に向かって来たかと思えば、私の右手首をきつく掴みそのまま引っ張りながら廊下を走り出した。

「子桓!?」

私は転びそうになったが慌てて子桓とペースを合わせ走り出す。相変わらず私の右手首を掴んで走るものだから私も前屈みになって走り辛い。
そうして暫く走り、人気の無い教室…科学講義室に入るなやいなや、扉を勢いよく閉めて子桓は私をその扉に追いやった。

「…お前は馬鹿か、この能無し」

息を整えないからか肩が自然と上下に動く子桓を見つめるも、いきなり口に出された言葉に私はきょとんとした。

「え…?私が何か…した……?」

私は子桓の気迫に困って小さな声で尋ねた。困惑からひくりと私の口端が上がってしまっている。
再び何か言おうと口を開けるも子桓は目を伏せ怒りを鎮めるようにため息をつけば、ようやく私から離れ自分の髪をくしゃりと掴んだ。センターで分かれた子桓の髪が乱れる。せっかくの綺麗な髪が台なしじゃないか…なんて言えば子桓の肩から吊る下がっている鞄が私の顔目掛けて飛んでくるのだろうな。

「お前は場を考えられないのか」

ふと、苛立ちを含んだ声で尋ねられる。
場…?あぁ、まさか…

「みんなの前で君の名前を呼んで何がいけない?きっと私がただ子桓に用があっただけなんだとみんなは思うし、大体私と子桓が付き合っているだなんて考えないだろ?」

屁理屈にも似た事を淡々と述べればギロリと睨まれた。…怖いな、子桓。

「急いで来ましたと言わんばかりに息を荒げ、更に嬉しそうに名前を呼ばれれば誤解だって招くかもしれんだろう」

段々と馬鹿らしく思えてきたのか子桓は髪を掴んでいた手を腰にあて呆れながら言った。

「君だってあんないつもからは見受けられない行動をみんなの前で取って、それこそ誤解を招くんじゃないか?」

冗談半分で笑いながら言ったのに物凄い形相で睨まれ私は渇いた笑みを浮かべた。

「…まあいい。それで用件はなんだ」

ああ、そうだった。私は子桓に用があったわけ…なんだが…

このような好ましくない雰囲気だというのに、言ってもいいものなのだろうか。


「………え…と…子桓。怒らない?」
「内容によりけりだ」
「絶対怒らないと約束するなら言うよ?」
「……俺を怒らせたいのか?違うならさっさと言え」

一人称が変わった子桓を見てさすがの私もそれ以上言葉を出せず、勇気を振り絞り用件を小さく呟いた。

「…あのさ、」

私はポケットから小さな紙袋を取り出し、おずおずと子桓の目の前に出す。
子桓はその紙袋を見て、目線を縮こまった私に移した。

「…バイトで給料貰ったから…その……」

口に出していく度に顔に血が集まるのが分かった。
子桓の目を見て受け取ってくれとサインすれば、子桓はその紙袋を掴み丁寧に中身を開けた。

「…これは…」

銀色の龍のキーホルダーが二つ。
揺れる度にきらりとゆれるそれをしばらく見た後、子桓は私に視線を移した。

「前一緒に買い物に行ったときさ、それ見て子桓、欲しそうな顔してたから…。私もつけたいから二つ買ったんだ」

迷惑だったかな?

子桓に視線を移そうと顔を上げようとする前に、私は後ろによろけてしまった。
…子桓が、私に抱きついていた。

「し、かん…?」

ギュッと私の制服に皺が出来るくらいに握り締められた。
子桓の香りがふわりと漂い、目を細めた。

「…どうして」

子桓の口からでた予想外の言葉に、私は「え?」と無意識に返した。

「…私なんぞにやるほど金に困っていないのか、お前は…!?」

顔を上げた子桓は嬉しそうというより悲しみに満ちた瞳をしていた。


子桓と私はこのような関係を始め結構な月日が経っている。
父親が社長故に裕福な子桓。
両親は昔に亡くなっており、今は諸葛亮先生の家に居候している私。
少しでも先生の重荷にならぬよう、学校に内緒でバイトをしているのだ。
全く以って不釣合いな二人だが、子桓はそんなこと気にもせず私のそばにいてくれる。

今の発言、私のことを思って言ってくれたのかな。そうだったら私は凄く嬉しいよ、子桓。

「どうしても君にあげたかった。誰よりも君を愛しているから…」

柔らかい笑みを浮かべ、私は子桓の髪を優しく撫でた。
まだ不屈そうな表情をする子桓に苦笑する。

「…子桓、受け取って?」

キーホルダーを握っている子桓の手の上に私の手を重ね、微笑する。
子桓は小さくコクンと頷いて、ケータイにつけ始めた。

「…綺麗だ」
「うん。綺麗だね」

ケータイにつる下がりぷらぷらとゆれるキーホルダーを見て、子桓は初めて笑った(微笑なんだけど、私にとっては最高の笑顔だ)

「あ、笑ってくれた」

私がそう言って嬉しそうに笑えば、子桓ははっとしてばつが悪そうに俯いた。

「子桓、顔、見せて?」

子桓の顎をくいっと持ち上げる。桜色の頬をした子桓と目が合った。

「可愛い」
「殴る」

こんな他愛ない会話でも、私はこれ以上にない幸せを感じた。
恥ずかしそうに視線を泳がせるも、子桓は俯いたままずかずかと歩き荒々しく扉を開けた。

「っ…子桓…?」

ピタッと子桓は立ち止まりしばらく黙っているも、不意に振り返っては先程より赤くなった頬を私に向けながらごにょごにょと呟いた。

「…暇だ。どこか行くぞ…来たければついて来い」

しばらく私はきょとんと子桓の顔を見つめるも、なんだか可笑しく感じればくすりと小さく笑って頷いた。




「子桓?」

「これは一生大切にする」

「…本当?」

「同じ事は言わん」

「………子桓…大好き…」

「馬鹿…人混みの中で言うな」

「じゃあキスする?」

「…………」


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無駄に長い\(^o^)/
とにかく甘甘な二人を書きたかったww
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