計算では計れない其れは

曹丕は自ら俺を求めてはこない。
最初は自尊心が高い故、強がっているからだと思っていたが、どうもそのようには感じられない。
というのも、俺が抱きしめてやればちゃんと曹丕も抱きしめ返してくれるし、俺が床につけば曹丕も俺の隣で体を横にする(触ろうとすれば、氷の玉をくらわされるが)。

俺としては、たまには自ら甘えてくる曹丕が見たいもので。
先程から書物に目を通している曹丕をじっと見つめながら、その思いに耽っていた。

「…言いたい事があるのなら言うがいい」

どこか別次元へ向かっていた俺の頭の中が急に水をかけられたように冴えざえした。俺の視線に気付いたのか、視線はそのままに曹丕が呟く。

曹丕と手を組み暫く経つが、今だに俺は曹丕の声色から心の内を読み取る事が出来ない。
したがって今の曹丕の言葉は苛立ちか或は単なる純粋な質問なのか読み取れず、俺はどう言えば良いか一瞬躊躇った。

「…いや、下らぬ事だ。気にするな」

「私の事をじろじろと見ながら下らぬ事を考えていたか…。存外お前は空け者のようだな」

「その空けに惹かれたお前は何だ」

挑発的な態度がカンに障り、頬杖をつき言ってやるも鼻で笑われてしまった。
敢えて追求しようとしない曹丕に俺が折れ、少々声を鋭くした。

「曹丕、お前は甘え下手か?それとも俺に甘えたくないのか?」

曹丕の手が止まり、瞳だけがゆっくりとこちらを向いた。
相変わらず冷たい瞳だ。いつになれば熱に侵される瞳を見られるのか。(なんて考えている俺は欲求不満なのか…?)

いや、そんなことは今はどうでもいい。

言葉を続けぬ俺に、曹丕は眉間に少々皴をつくり目を細めては淡々と呟いた。

「それは直訳すればお前は私に甘えてほしい、という事になるが?」

「左様だ」

すると曹丕は俺から視線を外し、小さくため息をついては再び書物に目を落とし出した。
こうなる事は目に見えていた。
曹丕が自ら甘えるなど、天地がひっくり返っても有り得ない。
あらゆる手を使えば無理矢理できなくもないが、所詮それは偽りの「甘え」。
俺はそういう手段は嫌いなのだよ。
ゆっくりと曹丕に近付き、曹丕の手に俺の手を重ね書物をやんわりと閉じさせる。
鬱陶しそうに曹丕がこちらを見ていたので、真剣な眼差しで見つめ返す。…可愛いげのない奴だな。

「どうしても駄目か」

「下らぬ戯れ事には付き合わん」

目を閉じるも突き放すような鋭い口調で言われれば、流石の俺も曹丕から少し身を引く。


………せめて口づけだけでも。


肩を落とし半ば諦めつつも微かな望みを期待して目を伏せ小さく呟く。
いつも俺から口づけを交わしている…たまには曹丕からの口づけを受け止めたい。

「…」

布の擦れる音。
あぁ、立ち上がったのかと顔を上げる。
そんな希望も虚しく散ったかと悲しげに見た先は、






目の前にある、曹丕の顔。






予想外の展開に目を丸くし頭の中が真っ白になる。
鼻と鼻が触れそうなくらいの至近距離に、息をする事さえ忘れる。
心が妙に落ち着かず、此処が何処なのか、自分が誰なのかさえどうでもよくなる。
瞬きを何回もし、無意識に真一文字に結ばれた口が微かに開く。

「曹―――…」






瞬間、唇に何かが当たる。






「…お前にはまだ早い」






当たったのは曹丕の白く細い人差し指。その指を俺の唇にあて、口の片端だけ微かに上げて曹丕は囁いたかと思えば、唇から指を離し、俺の額を親指で勢い付かせた人差し指で小突く。
俺は堪らず息を呑み、さっと額に手を当てた。
……意外に痛いな。

「っ…どういう意味だ」

「言葉の通りだ」

ふ、と小さく笑っては曹丕はゆっくりと立ち上がり、踵を返し外套を腕でひらりとたなびかせる。

「…お前の身長が私を越したら、考えてやろう」

そう呟くやいなや、曹丕は俺が質問を投げかける前に部屋から出て行ってしまった。



…どういう、意味なのか。

今の身長では駄目なのか?

そもそも口づけを交わす事に身長など………








俺ははっとして立ち上がり、勢いよく扉を開けて廊下を歩く曹丕を見た。


「曹丕!貴様は意外に乙女なのだな!」


その背中にそう言葉を投げて。











…………別に曹丕を馬鹿にしたわけではない、純粋に嬉しくて言っただけだというのに。

しばらく曹丕は会話を交わしてはくれず、俺に近付きさえもしなかった。






全くもってあいつが分からん!




※誰にでも平気で自分の気持ちを言う殿だからこそ…ってね
計算外の事ばかりでパニクったようです
しかしこのピ様乙女すぐる…しかもピ様の身長でかいから三成は一生かかっても無理(ry
ピ様は趙雲と凌統辺りが良いらしいですよ^^←
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