空に潜む君よ

孫市はふと顎を上げ空を見上げる。
真っ黒に覆われた空。暗雲の隙間から大粒の雨がこぼれ落ちる。
体を打ち付けていたその雨は孫市の顔に思い切りかかりだし、目を開ける事さえ困難を極めた。
だけど孫市は目を開けた。眼球に当たって痛い。反射的に目を細めたりはしたが、閉じたりはしなかった。

せめて今だけは何があっても空を見ていたい。

空が不規則に光り出す。遅れて地響き。

「…政宗」

地にあたり弾ける雨の音に簡単に負けてしまうくらい弱々しい声。
孫市の表情からは悲しみや怒りは見受けられない。本当に無表情なのだ。

握っていた銃がするりと手から抜け、カシャンと音を立てた。
しかし孫市は気にもせず空を見上げ続けた。

再び雲の隙間から一瞬の光。
先程よりも大きな地響きに、孫市は青白くなり震える唇を動かした。

「…泣いてんのか?」

再び盛大な光の轟き。それはまるで自分の問いに答えているようで、

孫市は崩れるように両膝をついた。

空から視線を泥に塗れた草原に移し右拳を思い切り地面に叩き付ける。
泥が頬や手を汚す。構わず何度も叩き付けた。何度も、何度も何度も。

―――まるで孤立したアイツを刺し続けた兵士のように

「なんでっ…なんで俺はっ…!!」

せき止めていた何かが壊れ、一心不乱に言葉にならない叫びを上げ続ける。

喉が枯れる。視界が霞む。体の芯が冷え切る。
されど止めない。止めたくなどない。

「知ってた筈だ。アイツが一人で敵陣に乗り込んだ事をアイツが陰で傷を見せまいと包帯を巻いていた事を!!」

だけど俺は言えなかった。
俺に頼れと、言えなかった。

あまりにも、あまりにもアイツの背中にしょっていたモンってのがデカすぎて、

思いを言葉に乗せられなかった。


孫市は頭を地に付け背中を丸め絶叫を続けた。
右拳がずきずきと痛む。胃から何かが込み上げてくる。
左手で口を抑えるも耐え切れなかった。

喉が焼ける様に熱い。
声がもう、でない。

ゆっくり上半身を起こし、上を向く。

まるで泥を拭うように雨は顔に再度打ち付けられた。


「…れ、も……お前んとこ…きてぇな…」


冷えきった銃を広い、心の臓に当ててはみたもののすぐ下ろした。

「…だよなぁ……これじゃ…駄目なんだよなぁ…なあ、政宗…?」

口を歪め銃に語りかけるように、震える声で呟く。



強く、しかし優しい轟きが起きた。



嗚呼、
竜が…、ないている



死より怖い現実。
それを受け止めた孫市は、ただ一人空を見上げていた。


―――――――
支離滅裂とはこの事よ!
申し訳ない
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