罪と罰(幸村ver. ふと鼻を刺激した鉄の臭いに、幸村はようやく熱く混濁した脳を冷ます事が出来た。 いつの間に息が上がっていたのか。赤い鎧は返り血で赤黒く点々と染められていた。 頬に流れる汗を拭う…血生臭い…嫌悪に眉をひそめ手を離し掌を見てみれば黒い手袋は暖かい液体でしとどに濡れていた。 どうしてだろう そこで幸村は不意に思った。自分の廻りに伏兵がいないのだ。一人も。 遠くからは合戦に気をぶつけ合う兵士の怒涛の声。 まるでこの空間だけがそのまま異様という塀によって閉じ込められたようである。明らかに、無音過ぎる…。 幸村はふと気になった足元を見た。そこには息も絶え絶えな知将。幸村がよく知っている、背中に愛を刻んだ青年………。 そこでようやく幸村は理解した。 ――ああ、そうか、 私が、兼続殿を… 崩れる様に膝をつくも慌てて兼続の上半身を抱き抱える。当の兼続は口から血を流し、まさに虫の息であった。 兼続の瞳がゆっくり開かれた。常に揺るぎない瞳は、今となっては完全に衰弱しており、視線は幸村ではなく幸村という形をぼんやりと見つめていた。 「兼続殿…私は……私は、友であった貴方を…共に義の世築かんと誓った貴方をっ…」 ぼんやりと視界が霞がかり、鼻の奥がつんとした。その様を見た兼続は力無く笑う。 「いい、これでいい。私は…おのが家族の為に…かつての理想を捨てた愚者だ……当然の…報い、だろう?」 その言葉に幸村は目を見開いた。 …では…では私は… たった一人で…何をしていたのか ――皆が笑って暮らせる世を築く―― ――義を以て友と理想の天下を誓い合う―― それが今はこうだ。 友は戦場で没し、 友は敵対していた軍に成り下がり、 こうも簡単に崩れてしまうのだ。 悲しみと、屈辱と、自嘲と、………怒り 正に混沌という渦が幸村の心を蝕んでいった。 「さあ、幸村。私を…殺せ。これが最後の…最期の友からの願いだ」 いつの間にか心はぽっかり闇に覆われていた。…お館様が没した時から自分は闇に侵食されていたのではないだろうか。 兼続の喉元をゆっくりと両手で掴む。脈打つ血管。生きる音。いまだ生を捨てきれず心残りを感じる兼続は下唇を噛む。 不思議と幸村には躊躇いは無かった。むしろ胸の鼓動が高鳴るばかりであった。 緊張?…いや、違う これは明らかなる、興奮 そこで幸村は思い出した。 自分の周りに兵がいなかったのは、酷く返り血を浴びていたのは… 小さな笑みが洩れた。モノをコワすシュンカン。それに魅入られ自我がコワれるシュンカン。 おかしくて、おかしくて、 ゆっくり、ゆっくり、力を込めた。 もう戻れない。 もう戻らない。 ――またひとつ、何かがコワれる 「さようなら、兼続殿」 赤黒い兵士は、曇り空を見上げ呟いた。 ――――― あまりにも衝撃的すぎた2幸村最終章 もし慶次の言葉がわかんなかったらこうなってたのかなぁって 兼続可哀相過ぎましたね… |