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トンビが、見晴らしのよい草原の上を悠々と飛んでいる。

こめかみから流れた汗が頬に一筋伝う。冷たいそよ風が髪を揺らし、熱くなった体を優しく通り抜けていく。
ゆっくり目をつぶり、程よい緊張を胸に抱きながら空気を肺に送り込む。
そしてゆっくりと吐き出して目を開け、再び真田幸村は目の前で刀を構え凛と立ちこちらを見据える知将直江兼続を見つめた。
自然と十文字槍を握る右手に力が篭る。

「兼続殿。もう一度手合わせ願いたい」

左手も沿え、腰を低くして構える。無論兼続もそのつもりだったのか小さく顎を引き頷いて刀を握り直した。
幸村が第一歩を踏み出した時であった。

「真田幸村!」

いきなりの名指しに幸村は思わず踏み止まり、声のした方角を見つめた。

「お前…」

兼続は声の主の正体にため息をつき、刀の構えを解いた。

右目を白と赤の生地で出来た布で隠し、虎の柄をした動きやすくもどこか可愛らしく幼さを強調する服を着て木刀で幸村を指す小柄な男…伊達政宗。
しかし、片目だけは相手を威圧させるがごとくぎらぎらと鋭かった。

「政宗殿!」

三日月の兜を被る政宗しか見かけたことのない幸村は、政宗の衣装にしばらく呆気にとられていたものの、久方の再開に表情を綻ばせては槍の構えを解き近づこうとした。
しかし政宗は敵意を全面的に剥き出した片目で幸村を睨みつける。

「貴様の首はわしが貰い受ける!」

いきなりそう幸村に吠えれば、政宗は一本踏み出し幸村へと風を切り勢い良く駆け出してきた。

「っ…」

政宗が2本の木刀を握りしめこちらに向かってくれば幸村は目を丸くするも、すぐ解いた槍を再び構える。

相打ちを狙おうと一歩踏み出した瞬間―――…

政宗の勢いが急に止まり…否、地面から半分だけ露出している石に足元をすくわれたのか、政宗の体が前のめりに倒れ出す。
地面にぶつかった瞬間小さな悲鳴をもらし、政宗はしばらく顔を草原に埋めていた。
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