「そこの旅のお嬢さん、」 引き止められて、足を止める。 遠い異国の、夕暮れの光差し込む人のいない公園。 そこに彼はいた。 「私、ですか?」 最初、私ではないと思った。 私は質素な格好であったし、髪の毛も短髪で男みたいだと笑われていたから。 でも、ここには私しかいなかった。 正確に言うと、私と、彼だけ。 「そう、君だよ。」 答えてくれたのが嬉しいのか、顔が綻んだ。 彼は年老いているように見えたが、笑った顔はとても幼く、可愛らしかった。 「なんでしょう。」 そんな可愛らしい笑顔にも気を取られないほどびっくりしていた私は、ゆっくりと返事をした。 「今日、何かあったのかね。泣きそうな顔をしているよ。」 …ビクリと、肩が震えた。 涙は確かに堪えていたが、誰にも気付かれていなかったのだ、少なくとも彼以外には。 そこで初めて、私は彼に顔を見られないように俯いた。 他人に気付かれてしまったら、私も今まで無視していた涙に気付いてしまう、溢れてしまう。 「何かあったんだね、辛いことだったんだね。」 彼はそう言って私の頭を撫でた。 温かくて、大きなその手は私の頭を包み込んだ。 いくら温かいものを飲んでも温かくならなかった心に、温もりを与えてくれた。 もう隠せなくなって、溢れ出す涙。 久しぶりに声をあげて泣いた。泣いた。泣いた。泣いた。 泣き疲れて、彼が座っていたベンチで眠ってしまっていた。 目が覚めたとき、彼はもう既にいなかった。 起き上がると、パサリ、と何かが落ちた。 『It is pleased it was possible to meet with you.』 一本のシオンと共に添えられたカードの言葉。 シオンの花言葉は、確か… 「君を忘れない、か…」 私も、忘れないよ。 日が沈み切る前の、少し明るい空に向かってそう思った。 君と出逢えた喜びよ (素直にさせてくれて、ありがとう…) ----------- Thanks 4000hit! Free |