俺は平凡な男子高校生。
特に格好良くも、可愛くもない、普通の学生。
そんな俺に春がやってきたようです。


ある朝の生徒玄関。
まだ寝起きの頭のまま下駄箱の中に手を突っ込んだとき、パラリと紙が落ちた。
ん?紙?
下駄箱とは無縁のものがあることに少々驚きつつも、それを拾い上げた。
可愛らしいメモ用紙が2つ折りにされている。
惜しいこと(?)に封筒には入っていない。
……ん?これはもしかして…ラ、ラ、ラブレターなんじゃないか?
そんな淡い期待を抱きながら、紙を元に戻すように開く。
すると、そこには女子特有の丸文字ではない、綺麗で丁寧な文字で
『放課後、1-Fの教室で待っていてください。』
……お、おお!?コレは人生初めての告白なんでないかい!!?
…い、いや、落ち着け俺。これはただ単に委員会の呼び出しとか…いや、俺入ってねぇし。
…ん?もしや入れ間違い?うん、そうかもしんねぇ。
……ってあれ。俺の下駄箱の周り女子しかいない。
じゃあ、俺の?
…い、いや、告白とは限らんぞ!リンチかもしんないし、これは期待してはいけない!駄目だぞ俺!期待するな!



とまぁ、自分に言い聞かせて、授業の為に教室へ向かう。
俺の教室は1-F。他クラスの前を通って突き当たりの教室になる。
急いで長い長い廊下を歩くが、とてもじゃないけど匂いがすごい。
この香ばしくて甘ったるい匂いは…チョコレートだな。
…今日なんかあったっけ?
…うーん、なんかお菓子の祭典でもあんのか?
えーと、今日は…2月14日!なるほど、バレンタインね…。
あー道理でチョコレート臭いわけだ。
こんなにチョコの匂いしてると、チョコ食いたくなくなるわ…。
モテる奴は大変だな。お、俺は全然いらないけどなっ…ぐすん。
どーせモテないよ。
毎年この時期は怖い。母と姉・妹からトリプルでチョコを貰うから。
あ、別にくれるのはいいんだけど、毎年必ずと言っていいほどチョコに何か混ぜてくるんだよ。
変な味するし、変な感覚残るし。
あと…身内以外からチョコ貰ったことないからな。
モテない男にはキツイ季節だよ。
……ってそうなると、だんだんあの手紙が気になってきたぞ。
そう思いながらポケットに入れた手紙を左手でくしゃり、と握りつぶしてしまった。
気が付くと、教室に着いていて自分の席に座った。
早く授業終われ。この手紙の真相が知りたい。



キーンコーンカーンコーン……
「じゃあ、練習12宿題な。各自ノート取ったら終わりにしてくれ。」
先生がそう言うと、次から次へとペンを筆入れにしまう音や鞄にノートを片付ける音が聴こえてきて、俺もそれに便乗して帰りの支度を始めた。
……う、うあー!!!長かった!長かったよ!!今まで以上に授業が長く感じた。
もうこんな手紙受け取りたくねぇわ。うん、モテる奴の言い分とかちょっと分かったかも。
今日は掃除当番では無いので、1-Fの掃除が終わるまで待って、自分の席に突っ伏して例の手紙の真相を待つことにした。
……数分後。
カタン、という音がして、俺は目が覚めた。
夢と現実を交互に行き来していて…まぁつまり、うとうとしてたんだけど。
まだ突っ伏したままにしておく。

「あ、あの。」

か弱そうな声が聞こえて、はっと顔を上げた。
俺の目の前には、可愛らしい女の子がいた。
スカートは短すぎじゃなくて清楚。綺麗系というよりは可愛い感じ。
決してギャルっぽくないし、キャピキャピもしていない、大人しそうな子だ。
少しの間見惚れていると、

「三谷君、三谷君は好きな人いますか?」

そう聞かれて思わず「あなたです」と答えたくなった。
というか、この質問が来るということは、やっぱ告白じゃ…!?

「い、いないけど…。」
「あ、そうなんだ。」

ホッとしたような声がまた可愛らしい。

「あ、あの、好き、です。付き合って下さい!」
「え、えっと。」

チョコレートの包み(と思われる)と共に発せられた言葉に内心舞い上がった。
いや、落ち着け俺!まだ返事はしてはならぬぞ。
この子の名前すら知らないんだ。慎重に行くんだぞ俺。

「や、やっぱり、駄目、かな…?」
「えっ、あーいや、あの。」

と、そのときだった。
「きゃっ!」と言う声と共に目の前の子が転んだ。
え、あれ?ドジっ子?
そして、その子の鞄が俺の足元に落ちた。
その子のものと思われる白いスライド式の携帯が鞄から出てきてしまっていた。
その携帯を拾い上げると、何故かプロフィール画面が開かれている。
そこには、
『丸井清三郎』
の文字が。
……え、あれ?名前が男にしか見えないのだが。
目の前にはブレザーの上着にプリーツの入ったスカートをはいた女の子がいる。
目をこすり、携帯の画面上の名前と目の前の女の子を見比べてみる。
さすがに、目の前の女の子が丸井清三郎なんて名前には見えない。

「いたたた…。」
「あ、あの…き、清三郎って…?」
「…え?……え?」

俺の質問に戸惑った女の子に、そのままになっている携帯を見せる。
すると、突然慌てた様子になってキョロキョロと辺りを見回すと、ふう、とため息をついて、

「バレちゃあ、しょうがない。」

と今までの可愛らしいか弱そうな声で無い、低い響きを持った強い口調の男の声になった。
心なしか目の前にいる子が女でなく男に見える。
…しかも表情が意地悪い笑顔なんですけど。
俺が困惑で固まっていると、丸井はすくっと立ち上がって、スカートについた埃をパンパンと払った。
そして、俺を見据えて更にニヤリと意地悪く笑った。

「…三谷孝太。俺と付き合え。」

……ちょ、待てぇぇえぇえぇえ!!!
何で男に告白されてるわけ!?一体どう返事をしたらいいんだ!
つか、さっきと違って命令形なんですけどぉぉおぉお!!?

人生の汚点

(男に告白されるとか…しかも初めて告白されたのに…)
(…で、どうすんだよ。まぁ、お前に拒否権なんてねぇけどな。)
(ノオオオオオオオオオオオ!!!!!!)


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20100207.
Varentine Free
※配布は終了致しました。




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