夏の風物詩がお嫌いな方、ご注意下さい。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
上條が気付くと、ぼんやり薄ら明るい室内に、厚く引いたカーテン越しから光が差し込んでいた。
あさ…?
あれ?野分は?
上條の携帯は無造作に枕元に置いてあり、その隣の宮城もまるで昨夜は何事もなかったかのようにガーゴーといびきをかいて眠っていた。
上條は慌てて自身の携帯の着信履歴を確認する。
「ない」
寝る前に話した野分の着信履歴は残っているが、一端眠りについてからの野分からの着信履歴は残っていない。
自分は確かに深夜、野分からの電話を受け取った筈なのに。
釈然としない中、のそりと起きだした宮城に昨晩の事を訪ねてみても、やはり何も覚えてないらしい。
ただ満場一致でここは何やら寝心地がよろしくないやら、居心地が悪いという事だけは見事に意見があったので、早々にチェックアウトさせていただく事にした。
朝食代わりに駅前牛丼店の朝食セットの生卵をかき混ぜつつ、宮城はイマイチ冴えない表情で唸る。
「…あーそう言えば昨夜と言えばな。なんかお前ワケわからん寝言ごちゃごちゃ言ってたぞ」
「そーですか」
やっぱり謎は深まるばかり。上條は適当に相槌を打つと、味噌汁を啜った。
上條が帰宅すると、丁度野分はタイミング悪く出勤した後らしく、ようやくちゃんと顔を合わせることができたのは、上條が出張から帰宅した4日後だった。
「え?夜中に電話ですか?」
野分はやはり覚えがないと首を傾げる。
「その時間は流石に眠っていたと思うんですけど」
野分は言う。
「ただ、遠く離れていてもヒロさんと一体になった夢は見ましたね」
「ヘンタイ」
「え?何がですか?」
「…もういい」
「―ただ、俺はいかなる時でもヒロさんセンサーが常に働いているんだという事を忘れないで下さい」
すいっと目を細めて、野分はしれっとそう言うのだった。