チョコなれ#2
この光景、どことなーく見覚えがある。
目の前には俺に似たヤツと、これまた野分にそっくりさんの大の男同士が見つめあっていて…。
「ただいまです。弘樹さん」
「おかえり、野分…」
ていうか、うーんと。
見覚えがあるというか、見たことがあるというか…
“読んだことがある”んだな…。
そんな俺の記憶そのまま、二人はらぶらぶバカップルよろしく、熱ーい口づけを交わした。
間違いない。
こいつらは“中條弘樹”と“風間野分”だ。
何でコイツらがここにいて、俺がこんなことになっているのか全くもって意味不明なのだが。
「相変わらず今年も沢山貰ってきたんだな」
こんなことになっている俺のことなど露知らず、目の前の二人はフツーに会話を繰り広げている。
そう、この時期になると職場のナースを始めとして、毎年女性陣から山のようにチョコを貰ってくるのだ。野分は。
「そういう弘樹さんこそ…」
風間は中條の両肩を掴んで、心配そうに顔を覗き込む。
「毎年この時期になるとバレンタインに託けて、弘樹さんが不貞な輩に襲われないか俺、心配になるんですよ?」
「「誰が襲われるか!誰が!!」」
俺(の中の声)と中條、二人の声が見事にハモる。
俺の声は相変わらず音として出ていないのだが。
「だ、だから今日だって真っ直ぐ真っ先に家に帰ってきてやったんだろーが」
だから何故そこでデレる、中條。
「ハイ、ありがとうございます。俺の弘樹さん」
コイツはコイツで、“俺の弘樹さん”とか、こーゆーのをさらっと言えてしまえるところが風間らしいと思う。
俺がまじまじとその違いを考察している内に、風間は目ざとく中條が後ろ手に隠したブツを見つけた。
げっ。ソレ、どうやら俺みたいなんだけど?
「これ、弘樹さんが作ってくれたんですか?」
きょとんと箱を見る風間の表情がみるみるうちに綻ぶ。
そのまま大切そうにいとおしく持ち上げた箱から、俺の隣のひとつまみを摘むと、これまたお約束通り、あーんと中條の口元に持ってくる。
「弘樹さんの口から俺に食べさせて下さい」
「…ひ、ひとつだけだぞ」
そっぽを向きつつも、中條は素直に口を開ける。
最初は初々そうに交わしていた口づけも、次第に激しさを増していき、中條は風間に翻弄されるがままになっていた。
「早く…俺のナカのも食べて…」
「弘樹さんも俺の熱でトロトロに溶かしてあげますからね」
ちょ、ちょっと待ったぁ!!
他人の情事を見るというこれまた恥ずかしいコトはないが、そんなことより。
そんなことよりだ。このノリで行くと、俺はこのまま中條と風間に食われるのか?!
冗談じゃない。
大体食われてしまったら、俺は一体どうなってしまうのだろう。
そんな迫りくる俺の窮地に颯爽と現れたのは…。
『ヒロさんは俺が貰います!!』
わんわんとどこからともなく声が聞こえてきたかと思うと、俺はあっという間にその真っ黒な毛並みのセントバーナードに食われていたのだった。
…って、食 わ れ た し?!
「!?はっ!」
再び意識が覚醒すると、そこはベッドの上。
いつもと変わらない光景。
見慣れた目覚まし時計と、目の前の真っ黒い毛並み…に一瞬見えた野分の頭。
「うーんヒロさん…(むにゃむにゃ)」
ちゃんと人間である。
俺も、野分も。
「脅かすなよ…」
ベッドの上でほっと安堵の息をついて、そっと誰にともなくそう呟く。
今日は誰かさんのおかげでとんだ夢を見てしまった。
そんな夢を見てしまったからだろうか。なんだか今は無性に、目の前にあるその黒髪をわしわしと撫でたい衝動に駆られた。
「ったく、しょーがねーな。ま、チョコぐらい作ってやるか…」
これも向こうのヤツラの気にアテられたということにしておこう。
これから野分が起きてきたら、今日は特別大出血サービスのチョコレートフォンデュ大会。
別に溶かして固めて…が面倒だったからじゃないぞ!!
とろとろに甘ーく溶かしたチョコレートで、
「お前の好きなモノにつけて食べればいいだろ?」
-------< おわり/>
(3.24up)
・・・・
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