足元に気を付けて、外は寒いので。

そう言って、差し出された手によってベランダへエスコート。
普段の、そこにある何気ない絨毯マットを踏み、敷居ならぬサッシレールを越えると―――

そこは、
雪原だった。







地平線の果てまでずっと続いているんじゃないかと思うくらい終わりのない雪。
そこには敷き詰められた白銀の世界が広がるだけで、建物はおろか電柱一つもない。
しんと静まり返ったこの地には二人以外誰も存在していないようだ。

そのあまりにも染み一つとない真白な景色に足が竦んで一歩も動けないでいる。
いや、この地を踏むのはなんだか勿体ない気がして。

「雪、だな」

「雪ですね」

「雪だ」

「はい」

ひとしきり感心した後、その澄み切った空気をすーっと胸一杯に吸い込む。
おもむろにその場に屈み込むと、弘樹は本当に申し訳程度に、足元に小さく「ゆき」となぞった。
雪は柔らかすぎず、硬すぎずさらさらと地面を掻き、なぞらえた指そのままにゆきの文字を形どる。

「ヒロさん、」

その可愛い動作に野分はくすりと笑う。そして背後からそっと弘樹を包み込むように屈むと、「ゆき」の「き」の横にこう加えた。

ゆきす

「?」
「しりとりです」

続きをどうぞ。
意味を問うべく振り向いた顔に、書きなぞらえた言葉のまま唇を寄せられてその先を促される。

ゆ“きす”

耳まで真っ赤に染めた恋人の指がその続きをなぞった。

ゆ 『き「す』き」

今なら、こんな時でないと素直に伝えられそうにないから。
口に出しては決して言わないけど。

触れたままの熱い唇がそっと笑みの形に変わる。

「お返しです」

そう言って一旦離れた唇が大切そうに再度“重ね”られ、

“好き”の想いを分け合って、

“きゅっ”と強く抱き締められた。


ゆきすき
きすきゆっ

それはその後あいしあって、






-------< 終雪/>




・・・・







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