誰も居ない筈の部屋はほんのり冷気が漂い、それを不思議に思えば、その真ん中に見慣れた姿が目に入った。
まるで倒れているかのように横たわるカカシに慌てて近づけば、聞こえてきた規則正しい寝息に思わず入っていた身体の力を抜いた。
全く紛らわしい奴め。

きっと任務明けだったのだろう。
起こさないようにしてカカシの周りに脱ぎ捨ててある額あてやベストを拾い上げ、ついでに寝室から薄い毛布を引っ張り出しその上に引っ掛けてやる。
余程疲れていたのかこれだけしても起きる気配は全くと言っていい程ない。
それはそれで忍として如何なんだと思うけれど。
無理矢理起こすつもりもないのでそのままに夕食の準備に取り掛かった。

暫くして背中に重みがかかる。
肩越しに見慣れた銀色が目に入った。


「おはよー」
「おう。つってももう夜だけどな」
「うん。…アスマ」


背中から回る腕と甘えたような声色に手を止めてカカシの正面に向き直る。
途端に肩口に顔を埋められ背中に回った腕に力が込められた。


「カカシ?」
「……」


黙ったままギリギリと込められる力。
これは抱きつかれているんじゃない、締め上げられている。
そんな力強い抱擁を受けながら、何かしただろうかと思い返してみるが、思い当たる節がない。
って痛ぇな、おい。


「カカシ、痛い」
「……すぎ…」
「どうした?」
「…だから…、後輩に、…慕われすぎ……べたべた触らせすぎ…!アスマが甘えさせていいのは、オレだけでしょーよっ!」


一気に捲くし立てたと思えば、余りにも可愛らしい理由に思わず耐えきれなかった笑いが零れた。
それに気付いたカカシにキッと睨み付けられたけれど、ほんのり頬を赤く染め上げているのだから全くと言っていい程効果はない。
むしろ逆効果だろうに。


「ははっ、」
「〜〜〜っ!アスマッ!」
「お前可愛いな」
「うるさいっ」


もういいと離れて行く身体を抱き止めて、思い切り力を込めた。
顔中に口付けを降らせ、最後に大人しく応えるカカシの耳元に囁いた。


本気で甘やかすのはお前だけだよ。







【それを幸せと呼ぶのです 5題】
配布元:リコリスの花束を


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