昼休みごろ、赤司くんからLINEが入った。なんだろうと内容を見ると紫原くんがスイーツパラダイスというスイーツ食べ放題のタダ券を貰ったというのでそこまで食べに行くから一緒にどうか?ということらしかった。甘い物は女子として普通に大好きなので一も二もなく返事した。部活は大丈夫なのかな?と思ったが、今日は先生の都合がつかずに休みらしい。皆と、なにより赤司くんと放課後に遊べるのはすごく嬉しかった。楽しみだなあとスマホを閉じた。

……

皆とスイパラ(と略すらしい)に向かう。緑間くんとか青峰くんが食べに行くとは驚いた。なんとなくこの2人は甘い物が苦手なそうなのに。「甘い物平気なの?」と聞いてみたら

「別段得意じゃねーけど食えねーほどじゃねえ、軽食もあるしな」

らしい。緑間くんはそういえばおしるこをよく飲んでたから好きなんだなと思った。男子中学生がスイーツ食べ放題の店なんて恥ずかしくないのかな?と思ったけど、桃井さんがいるから大丈夫らしい。スイパラは帝光から駅みっつほど離れたショッピングモールの中にある。桃井さんがある服屋を通りかかったとき感嘆の声を漏らす。

「ねー!この服可愛い!」

「ほんとだ。可愛いね」

そこには白い半袖のワンピースが飾られていた。……いいな、こんな服着てみたいな……。でも男として育てられている私とは無縁だ。着れないならせめて目に焼き付けておこうとじいっとワンピースを見つめる。

「着たいんですか?」

「わあ!!」

黒子くんがいきなり横から現れた。いや、きっとずっと横にいたんだろうけど影が薄すぎて気づかなかった。ドキドキと嫌な加速をする心臓をおさえる。というか黒子くんはなんて言った?「着たいんですか?」とかいってなかったか?その事実を認識すると見透かされたことに頬が熱くなるのを感じた。

「そんなわけないだろ!!!」

「でも物欲しそうに見てましたよ」

「っ!」

黒子くんは人間観察が趣味らしく、よく人のことを見ているが、今はそれは余計だった。私は必死に言い訳を考えた。

「僕は……!彼女!そう!彼女ができたらこんな服着てほしいって思っただけだよ!」

「そうですか」

「そうです!」

黒子くんはそれで引いてくれた。ホッと息を吐く。すると騒いだからか店員さんが寄ってきた。

「着られますか?」

「は!?」

「お客様きっと似合いますよ!こんなに可愛いんですもん!」

「いや僕は……!」

「僕っ娘なんですか?可愛いー!」

どうやら店員さんは私のことを顔だけ見て女だと思っているらしくワンピースをとって試着室に押し込まれる。冗談じゃない、着れるわけがないじゃないか。私は押し込められたワンピースをもって試着室から出ようカーテンを開ける。すると面白がった黄瀬くんが私の靴をとった。

「ちょっと!返してよ!」

「着てみたらいーじゃないッスか!」

「俺も清水ちんの女装見てみたいー」

この2人はダメだと他の人に助けを求めるも目をそらされたり半笑いされたり話にならない。赤司くんに目で助けを求めてもにこにこ笑うだけで助けてくれなかった。店員さんは靴を見繕いに行っていていなかった。これは着るまで外にでれそうにないと私は唸った。

「ひどい!イジメだ!!」

「愛はあるから大丈夫ッスよ!」

愛があるからなんだっていうんだ。普通男(と思ってるやつ)に女物のワンピース着せるか!?そうは思ってももう着るという選択肢以外ないのだから、私は観念した。ワンピースを着てカーテンを開ける。すると桃井さんは歓声をあげてくれたが、他の人からなんともいえない空気が流れた。

「似合ってるッスね、似合いすぎて逆に引くっていうか」

「着ろって言ったの黄瀬くんじゃないかー!」

そこで店員さんが靴をもってやってきてくれた。私はそれを履いて試着室からでた。踵が高くてフラフラする。

「肩幅とかパツパツにならないんですね、華奢なんですか」

「コンプレックスを指摘しないでくれる!?」

黒子くんに詰め寄るとぐねってこけそうになった。すると傍にいた赤司くんが支えてくれた。

「ご、ごめん」

「いや、大丈夫だよ。それよりよく似合っているね」

赤司くんは蕩けそうな笑顔でいう。その顔に心臓が高鳴る。しかしここで黙ってしまったら変なので私は噛み付いておいた。

「だから失礼だよ!!もういいでしょ!?着替える!!」

「そいえばさー」

紫原くんがまいう棒を貪りながら思い出したようにつぶやく。

「これから行くスイパラの席って4人がけが最大で、店内的に机くっつけらんないんだよねー」

「四対四に別れることになるのか」

青峰くんがなんでもなさそうに答える。私は気づいてしまった、紫原くんがこれから提案するであろうことを。

「女子はさっちん1人だし、4人は恥ずかしい思いすることになるって思ってたけど、清水ちんが女装したままだったら平気なんじゃね?」

「確かに」

なにが確かに、だよ!緑間くん!私の男としての尊厳はどこにいくのさ!!!確かに着てたいけど、でもそれは男としては変だ。

「嫌だけど!?第1今日お金そんな持ってきてないから服買えないし!」

「買えればいいのかい?」

赤司くんが不敵に笑う。嫌な予感がすると冷や汗がでる。

「よければその服をプレゼントするよ」

「いやいらないけど!!?」

そんなことをぎゃいぎゃい言い合ってたら桃井さんが間に入ってくれた。

「ちょっと!清水くん嫌がってるんだからもうその辺にしといてあげなよ」

「桃井さん!!!」

あまりの桃井さんの優しさに思わず抱きついてしまう。すると桃井さんは顔を真っ赤にして悲鳴をあげる。

「おい、桃井が困っているだろう。」

「うるさいよ赤司くん!僕も困ってるよ!!!」

私の時は助けてくれないくせに桃井さんのときは瞬時に助けようとするんだね、なんて醜い感情がわきでてくる。赤司くんは怖い顔をしていたけど、無視して桃井さんをぎゅっと抱きしめる。

「ね、さつきちゃんって呼んでいい?」

「い、いいけど離して!」

「わーい、さつきちゃんは可愛いな!」

そう言うと赤司くんからさらに殺気のようなものが飛んでくる。

「お前結構女好きか?」

青峰くんがさつきちゃんから私を剥がしながら聞く。

「女の子って可愛いよね」

大好きだよ、と答えると赤司くんは険しい顔をする。ふん、なに怒ってるのか知らないけど、私だって怒ってるんだ。(嫉妬したというほうが正しいかもしれない)私は試着室に戻って制服に着替えた。

……

スイパラにつくと私と赤司くんと緑間くんと紫原くんが同じ席に座った。隣は赤司くんで、赤司くんの機嫌は直っていたけど、私の恨みは根が深かった。別に赤司くんだけが悪いわけじゃなかったけど、親友なのに止めてくれなかったから私の怒りは赤司くんに向いていた。それぞれがケーキを取りに行って席につく。私は赤司くんに話しかけることなくケーキを食べ進める。しかし、喧嘩したまま食べてもあまり美味しくなかった。

「まだ怒っているのか?」

「………………。」

無視して食べる。すると赤司くんはとリンゴのペーストが乗ったケーキを1口すっと私の目の前にもってきた。

「清水の好きそうなケーキだと思ってね」

「これ、どこにあったの?」

キラキラと目が輝くのがわかった。怒りなんてどこかに吹っ飛んでいくようだ。赤司くんはそれがわかったのかクスっと笑った。

「奥にひっそりあったよ、見逃してると思ってね。」

「ほら、口を開けて」と赤司くんは食べさせてくれようとする。え、関節キスになるけどらいいのか?そう動揺するも、ここで躊躇ったら変なのかなと口を開ける。どんどんケーキが口に近づいてくる。私も口をケーキに近づける。するとふいっとケーキが遠ざかって赤司くんの口に入った。私は口を開けたまま呆然とする。

「あー!!!!」

赤司くんはおかしそうに笑った。私は軽く赤司くんの腕にパンチした。

「ごめんごめん、ほら。食べていいよ」

「むう」

赤司くんは私にケーキごと寄越した。私はふくれっ面でケーキを頬張る。程よい甘味が口の中に広がる。頬が緩むのが感じた。

「美味しいかい?」

「うん!」

赤司くんは蕩けそうな顔で笑った。その顔にキュンとする。赤くなりそうになる頬をケーキに集中することによっておさえつけた。

「あーあ、イチャつくなら他所でやってよね」

「!?」

対面の紫原くんが鬱陶しそうにケーキを頬張る。緑間くんも同じ顔して白玉の乗ったケーキを食べていた。

「イチャ、イチャつくって!!男同志でそんなわけ……!」

「すまないね」

「赤司くん!?」

赤司くんは涼しい顔をして動じてないようだ。そっか、こういう場合はそういう反応するのがいいのか。私も赤司くんに倣って平静を装った。

ケーキやパスタをいっぱい食べてお腹が膨れたころ、そろそろ帰ろうかとなって店内からでる。

「美味しかった!紫原くんありがとう!」

「いーよー」

電車までの道のりをぞろぞろと歩いて帰る。

「それにしても清水はあまり食べなかったな」

緑間くんが不思議そうに聞く。そりゃ中学生男子に比べたら私の食べられる量なんて微々たるものだろう。

「少食なんだ」

「それにしても少ない気がするのだよ。黒子より食べてなかっだろう」

「そうなんスか?だからちっちゃいんスね」

「赤司くん、馬鹿にされたよ?」

「そうだな、黄瀬。明日の外周は十周余計に走れ」

「わー!ごめんなさい!!」

赤司くんと私は同じくらいの背丈で、私の身長を小さいと言うのなら、赤司くんも小さいということになる。しかし、私はもう伸びないけど、赤司くんはこれからも伸びていくだろう。いつか、……いつか完全に抜かされてしまうのだろうか。そう思うとなぜか少し寂しくなった。

……

家に帰り、ベッドに倒れこむ。

「………………。」

白いワンピースを着た清水は可愛く、とても男だとは思えなかった。あの時も、メイド服をきた時も女子のようだとは思った。もう一度女子のような姿を見たくて無理やり着せたが怒らせてしまったと反省している。しかし、清水が女好きだとは思わなかった。恋人ができてしまったらどうしようと悩む。桃井に抱きついたとき、言いようのない嫉妬心が渦巻いたのに恋人なんてできたら何をしてしまうか分かったものじゃない。

「……女性だったらよかったのに」

清水が女性だったらこんなに悩むことは無かっただろう。俺は願っても仕方ないことを思うことしかできなかった

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