梅雨、そう日本の風物詩である。だが朝起きて降ってるのはいただけない。水遣りに行けないじゃないかと落胆する毎日が続いている。そう、水遣りに行けないということは堅治くんに朝会えないということだ。ガッテム梅雨、貴様は許さない。そのことを辻本に話すと「馬鹿じゃないの」と鼻で笑われた。解せぬ。

「今日は晴れてる!」

やったー!と飛び起きて学校に向かう支度をする。数日ぶりの堅治くんとの登校日である。湿気で広がる髪をなんとかおさえつけて家を出る。すると丁度家から出てきた堅治くんと会う。

「おはよ。」

「おはよう!」

「なんか今日テンション高くね?」

笑いながら堅治くんは言う。それはもう、あなたに会えるのが嬉しくて嬉しくてたまらないんです!なんて言えるはずもなく「久しぶりにお天気だから!」と無難にごまかす。すると堅治くんも「そうだな」と、どことなく嬉しそうだ。やはり雨よりも晴れてる方がいいよね、とひとりごちた。

......

「あー降ってきちゃったかー」

空を見上げると曇天が広がっている。せっかくお天気だったのに、と落ち込んでいると辻本が

「しょうがないでしょ、降ってきちゃったものは」

と肩をすくめる。こいつの割り切りのよさはどこから来るのか少し不思議である。今日は辻本と同じ委員会の仕事で遅くなった。委員会さえなければ雨に降られなかったのになと舌打ちしたくなった。

昇降口まで行くとなんと堅治くんがいた。堅治くんはこちらに気づいておらず、「げ、降ってきた。俺傘もってないんだよな」と呟いている。堅治くんの周りには他のバレー部員だろうか?大きい面々が揃っていた。

辻本が私の脇をつつく。わかってるよと視線を送る。他のバレー部員がいて少し恥ずかしいがここで誘わなかったら一生後悔するからな、と息を大きく吸い込んだ。

「おにーさん。一緒に入ってかない?」

......

今日は1日晴れだろうとなんて楽観的なことをかんがえていたら降ってきやがった。ついてないなぁとため息を吐く。すると鎌先さんが「俺の傘に入れてやろうか?」なんて気持ち悪いことを言う。「じょうだんきついっすよー、鎌先さんと相合傘なんて、濡れて帰ったほうがマシっす。」かわいい女の子なら別ですけど、なんて言うと鎌先さんは「二口てめー人の善意を!」とお怒りだ。茂庭さんも「いや、普通にきもいからな」と加勢してくれる。うん、でかい図体の男同士が相合傘なんてきもい以外の何者でもないな。なんて考えていると「おにーさん。一緒に入ってかない?」という声が聞こえた。振り向くとそこにはみょうじと辻本さんがいた。

「げ、みょうじ」

「げ、ってなにー?失礼よー?」

と辻本さんが苦笑まじりに言う。げんなりするのはしょうがない。今日は引退した3年の先輩や他のバレー部員がいるのだから、そんな中でみょうじと相合傘なんてしてみろ、からかいの的である。

「一緒に入ってかない?ってどこのナンパ師だよ」

「な、ナンパ師...!」

みょうじは多少ショックを受けたようだ。こいつがきたならしょうがないと鎌先さんに向き直る。

「一緒に入れてください」

「は?お前あれほど嫌がってたじゃねーかよ。可愛い女の子ならいいんじゃねーの?あの子可愛いじゃん」

「つかお前あの子とどんな関係なんだよ」とうりうりされる。あーやだやだ。だから嫌だったんた。こいつらにみょうじ合わせるの。

「幼馴染みってヤツっすよ。まあ腐れ縁?的な?」

「ただの幼馴染みが傘入れてくれるかー?」

とニヤニヤ笑う。笹谷さんも茂庭さんも同じ表情だ。キモいっすよあんたら。

「入ってかないの?」

としょんぼりしたみょうじが間に入ってくる。その顔やめろ、居心地が悪くなる。

「だってこいつ、強情なんすもん」

「は?」

......

二口が「こいつは自分で傘持つってきかねーから嫌なんだ」と言うとみょうじ?ちゃんが「だって二口くん私の方に傘傾けるでしょ、そしたら二口くんの肩濡れちゃうじゃん」と言い、二口が「ちっげーよ!人のをいい人みたいに言うな!傾けてお前にだばだば水落とすんだよ!それにお前がもつと高さ足りねーから俺傘にささるじゃん。」「大丈夫!背伸びするよ!」とみょうじちゃん。「背伸びさせてまで傘持たす男ってなんだよ!」と二口。はいはい痴話喧嘩はよそでやってね。それを二人に言うと「こいつとはそんなんじゃねーっす!」と二口が顔真っ赤にして反論する。みょうじちゃんは二口の言葉にうなだれていて二口の真っ赤な顔には気づいていないようだった。その顔、みょうじちゃんに見せてやれ。

「そういうことなんで、鎌先さん、入れてください。あ、辻本さんてもいいけど」

二口が微笑む、その言葉にびくりと肩を震わすみょうじちゃんは大概分かりやすい。そんなみょうじちゃんを見てか辻本さんは(学園のマドンナなので知っている)「私の傘一人専用だからー」と嘯く。しょんぼりしているみょうじちゃんを見ているとかわいそうになってきて、つい助け船をだしてしまう。

「はいはい、二口はみょうじちゃんと帰りな。幼馴染みってことは家も近いんだろ?一番合理的じゃん」

「な、茂庭さん!」

二口の顔が、朱に染まる。だからその顔みょうじちゃんに見せてやれって。

「でみょうじちゃんは二口に傘渡すこと。二口にもメンツってもんがあるからな」

みょうじちゃんはやや不満のいった風情でこくんと頷いた。確かにこの子は強情だ。

さあ帰ろうとなって二人を見送る。まだぎゃーぎゃーと言い合っている二人をしり目に

「俺たちも青春したかったなあ」

と鎌先がいう。

「俺たちにはバレーがあっただろ」

と笹谷が答える。

「あの二人はやくくっ付くといいな」

という俺の言葉に全員がぶんと頷いた。






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