「わー!すごい!!」
目をキラキラに輝かせて花畑にダイブする姿はとても可愛くて、だからもっと喜ばせてやりたくて、先日覚えたばかりの花冠をつくってやろうと思った。
「けんじくんなにやってんの?」
「ひみつー!」
でも幼い手にシロツメクサの花冠は難しくて上手にできなかった。くちゃくちゃになったシロツメクサを見て泣きそうになったのを覚えている。見兼ねたなまえは「こうするんだよ」と上手にシロツメクサを編んで行く。彼女は昔から手先が器用だった。
「すげー!」
「はい、けんじくん」
そう言ってなまえは俺の頭に花冠を載せ「はなよめさんみたい!」とはしゃいだ。それに無性に腹が立って花冠を頭からひっぺがす。
「おとこははなよめにはなれないんだよ!」
「えー、でもすっごくにあってるよ?」
「おおきくなったらはなよめさんにしてあげるね!」となまえは嬉しそうに笑った。
「...なんだ今の夢」
わかっている、昔の夢だ。なぜ今更になってこんな夢を見たのかがわからない。時刻は5:28分、あと2分で目覚ましが鳴る時間。起きるかと布団を剥ぐ。バレー部員の朝は早い。
......
朝6時、私は押し付けられた仕事、花壇の水やりをしに家から出た。いくら先生のお願いだからと言っても断ればよかったかなと少し後悔する。春先とはいえまだこの時間は寒い。すると隣の家からもガチャリとドアが開く音がした。
「ふ、二口くん...」
「あれ、みょうじじゃん。おはよー」
まだ眠そうな堅治くんが欠伸をする。そんな姿さえかわいいなと思ってしまう私は末期だと思う。そう、私はこの幼馴染に絶賛片思い中なのである。
「おはよう。早いね」
「みょうじこそ早くね?お前帰宅部だろ?確か。」
「俺はバレーの朝練だけど」とダルそうに言う。
「花壇の水遣りしに、授業始まるまでに終わらせないといけないから。」
「はあー?花壇の水遣り??そんなしごと押し付けられたの?相変わらずだな」
クスクス笑う堅治くんにつられて私も笑う。そう、昔から私は優等生タイプで先生からの覚えもいい。なのでこんな仕事をしょっちゅう押し付けられてきたのである。対して堅治くんは私とは真反対で先生からの頼みごとものらくらかわせる。今こうして疎遠になってないのが奇跡だと思う。ありがとう神様。
「二口くんはいつもこの時間に?」
「そ、眠いけどしゃーないよな」
と堅治くんはふぁとまた欠伸した。今日は様子見のために早起きしたけど明日からもこの時間帯で登校することを心に誓う。水遣りなんて面倒くさいなと思っていたけど、今はこの役割をくれた先生に感謝している。なんて現金な奴なんだ。
私が堅治くんを好きになったのはいつかは分からない。だが自覚したのは忘れもしない、小学4年生の時だ。「お前らカップルでもないのに名前で呼び合うなんて変ー!」と茶化されたのがきっかけだ。私は気にしなかったが堅治くんは気にした。「苗字で呼んでくれね?」あの衝撃は忘れられない。胸がきゅっとなって痛くて泣きそうになったのを覚えている。このことを母親に話したら「お赤飯炊かなくちゃ」と意味不明な言葉が返ってきた。だから親友の辻本に話したら「それは恋よ」と解答を貰った。それから私は堅治くんのことが好きなんだと自覚するようになった。母親に恋心がばれたのはこのさい無視することにした。
堅治くんとの幸せな時間はあっという間に過ぎた。もっと長い距離だったらいいのにと思ってもしょうがないことを思った。堅治くんは体育館へ、私は花壇へとさよならの挨拶をして向かった。
......
「元気に育てよ?」
ね、カトリーヌ。と独り言を言いながら水遣りをする。植えている花はヒマワリで花言葉はなんだったけな、と1人首を傾げる。
「あ、元気に育って欲しいけど、ゆっくり成長してね!急いじゃ嫌だよ!」
と子を持つ母親のようなことを言う。その真意は堅治くんと一緒に登校したいという下心だから母親のようには純粋になれない。
「あ、ヒマワリの花言葉...思い出した。」
私はあなただけを見つめる。まるで堅治くんへの私の心のようだ。なんて臭いことを考えたりして、顔をが熱くなりそうだ。この花が咲く頃に告白しよかしらなんて、ありえないことを考えたりした。
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