「お願いー!」と手を合わせて頼んでくるのはひとつ括りした髪型がなんとも可愛い伊達工のマネージャー滑津舞ちゃんである。いわく、合宿中は人手が足りないらしい。そこで白羽の矢がたったのが堅治くんの幼馴染みである私なというわけだ。

「む、無理だよ、花壇の水遣りあるし...」

別に花壇の水遣りなど他の人に頼んでも良かったのだが、私にはバレー部に関わってはいけない理由がある。そう二口堅治くんだ。彼が好き。合宿など参加した浮かれに浮かれて彼しか見ないこと請け合いである。そんな半端なやつにが参加していいはずない。同じ理由からバレー部のマネージャーもやってないし、試合すら見に行ってない。

「花壇の水遣りなら代わりに辻本さんがやってくれるそうだから!ね!お願い!」

辻本よ、私がバレー部に関わらない理由知ってるだろ、何故売った。と辻本に怒りが横滑りする。ここまでお膳立てされたらもう答えはひとつしかない。

「...いいよ」

「本当!?やった!じゃあ明朝8時に集合ね!」

よかったよかったと彼女はたいへん嬉しそうだ。それだけで受けてよかったかもなんて現金な考えが沸き起こる。いけない、気を引き締めなくちゃ。

......

「げっ、なんでみょうじがいるんだよ!」

「頼まれたの、滑津さんに手伝ってって」

「はーいー!?」

「お前できんのかよ!」と至極失礼な疑問が飛ぶ。

「できるかできないかはわからないけど任されたからには頑張るつもりだよ」

「あっそ、まあ頑張れや」

と堅治くんはそっぽを向いた。ふくれっ面で子供っぽかった。その様子に首を傾げる。そんなに私が参加するのが嫌なのかなと不安になる。

「バスに乗れ!順番に詰めて行けよ」

監督の号令で続々とバスに乗る。私の隣は同性の滑津さんかと思っていたら

「え、なんで。なんで二口くんが隣なの?」

「しょーがねーだろ、順番に詰めていったらこうなったんだよ。好きで隣になったんじゃない」

なんて憎まれ口を叩くが私は堅治くんが隣だという事実にドキドキしっぱなしだった。え、これは水遣り頑張った私えのご褒美なの?神様ありがとう。まだ見ぬ神様に祈りを捧げてたら堅治くんが「お前ら笑ってんじゃねー!」と怒鳴っていた。どうやら座席から身を乗り出してニヤニヤな笑みを送られたらしい。私は窓際なのでその姿が見えにくい。

「寝る!」

と宣言して堅治くんは首を私とは反対方向にして寝始めた。お話ししたかったなとか首痛めないのかなとか色々考えは巡ったけど、私も早起きで眠気がピークに達していたので寝ることにした。

......

「おい、起きろ。もうすぐ着くぞ。」

「ふえ?」

目がさめるとおもいっきし堅治くんの肩にもたれかかって爆睡していた。うわわと慌てて飛び起きる。

「ご、ごめん。」

「べっつにー」

堅治くんはどこか不機嫌そうだった。重かったのかなと検討をつける。

「ごめん、重かったよね」

「いや、重くはなかった。」

じゃあ何故不機嫌なのだろう、私にはやはり検討がつかない。

「お前さ、」

「?」

「誰が相手でもそうやって寝るの?」

そうやって、肩にもたれかかって寝るの。その意味を理解した時、私は反射で噛み付いた。

「二口くんじゃないと寝れないよ!」

堅治くんは前を向いたままぴくりと眉を動かした。頬は少し赤いような気がする。

「そーかよ、」

とぶっきらぼうに言う。「うん、二口くんじゃなかったら安心して寝れない」というと頭をはたかれた。解せぬ。しかし堅治くんの機嫌は少し回復したみたいだ。なにが琴線に触れたのだろう、わからない。

......

合宿場に到着し、荷物をおいて早速練習に入る。私は基本簡単なことしかサポートできないが、それでもやることはてんこ盛りだった。

練習中の堅治くんは最高にカッコよかった。なんで今まで避けていたんだと自分を叱責したくなる。たまに腹チラなんか見れたりして眼福である。よだれが垂れそうだ。

「見すぎ、穴あいちゃうよ?」

「あかないよ!?」

その言葉にハッとする。しまった。堅治くんに集中しすぎだった。滑津さんはふふっと笑う。

「ご、ごめん」

「大丈夫」

「さあ、さっさと終わらせちゃおー」と滑津さんはカゴを持って体育館の外にでる。私もそれに倣った。

......

休憩時間選手たちは一斉に床になだれ込む。お疲れさまーとドリンクともタオルを渡す。座り直した選手たちが「さんきゅ」と次々に受け取る。渡し終えると私は作並くんと黄金川くんの間にすとんと座った。たまたま隙間があっただけだが、一年生コンビに挟まれて嬉しいのも事実だ。ふと視線を感じて正面を見るとすぐ前にいる堅治くんがこちらを見ていた。パチリと目が合う。その視線は堅治くんによってすぐに逸らされた。

「ねぇねぇ、普段は二口くんってどんな感じなの?」

隣の黄金川くんに聞く。「そっすねー」と黄金川くんはドリンクから口を離して考え込む

「俺は大好きなんすけど、ウザがられてるってかんじですかね!」

「わー、じゃあ片思いだ!」

私と一緒だね、とは言えなかった。堅治くんは「気持ち悪いこと言ってんじゃねー!」とご立腹だ。

「この前のヒマワリ見に行った時もウザがられました!」

「え?ヒマワリ?」

「はい!めっちゃ愛おしそうに見てました!ぐっ!!」

黄金川くんが苦しそうに呻く。堅治くんが「余計なことをいうんじゃねえ」と締め上げているのである。作並くんが「この前、休憩時間に皆んなで見に行ったんですよ。二口さんの発案で」と補足したくれた。私はそれを聞くと嬉しくてたまらなくなった。貴重な休憩時間に、暑かっただろうにわざわざ時間を割いてまで見に行ってくれたことに。そう考えると自然に頬が緩んだ。

「えへへ、ありがとう」

「!!」

わたしが笑った途端、堅治くんは私にタオルを投げつけた。顔面にクリーンヒットである。

「い、痛い。」

......

二口先輩がみょうじ先輩に向かってタオルを投げた。みょうじ先輩は「痛い」とタオルを顔面から離す。いくら彼女の可愛い笑顔を他の男に見られたくなかったからと言って力技すぎるだろうとため息がでる。

「みょうじ先輩!大丈夫ですか?」

「うぅ、ありがとう作並くん。」

「作並くんは優しいね」と頭をよしよしされる。それを見た二口先輩が鬼の形相でこちらを見る。このままでは二枚目のタオルが飛んできそうだ、俺に。やんわりとみょうじ先輩から離れ二口先輩を見ると、まだ黄金川くんをしばいていた。黄金川くん、お前は少し空気が読めないからな。と突っ放し路線に切り替える。すると監督が「集合ー!」と号令をかけた。もっと素直になればいいのにと二口先輩に思った。

......

合宿初日はあっという間に過ぎた。その疲れをお風呂で癒す。

「疲れたー」

「おつかれ、ほんと助かったよ。ありがとう!」

「役に立てたならよかった。」

にっこり笑ってお風呂から出る。あまり長風呂はできない。お風呂は共同なのだ。

お風呂からでて共同区画の自販機に向かう。そこにはジュースを買う堅治くんの姿があった。

「二口くん!」

「おー...。!?」

堅治くんは目をむいてこちらを見る。すると段々顔が赤くなっていく。

「おまっ、なんつー格好で共同区画きてんだよ!はやく女子区画に帰れ!」

「え、そんな変な格好かな」

「なんでそんなだぼだぼなTシャツきてんだよ!」

確かに私は少し大きめのTシャツを着ていた。しかし、それほどでもない。堅治くんは飲んでいたジュースを机に起き、持っていたタオルで私の頭を拭く。

「頭も濡れてるしよ。なんなのお前、子供なの?」

「ふふ、ごめん」

わしゃわしゃと髪の毛を拭くその手つきは優しい。まるで大切な物に触れてるみたいな感じでドキドキした。

「気持ちいい」

「!!」

堅治くんはピタッと手を止めて私の頭をはたいた。

「い、いたいよ二口くん。」

「うるせー!お前が変なこと言うからだ!!」

そう言ってタオルを私の首元に巻く。そして真っ赤な顔で怒ったように言った。

「いいか!そのタオル女子区画に行くまで外すなよ!絶対だからな!」

過保護だなあと呑気な感想が湧く。私が素直に頷くと堅治くんは「よろしい」と及第点をだす先生のように頷いた。






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