思い慕う
今日は珍しく部活が早く終わるとのことなので一緒に帰ろうと五色が誘ってくれた。顔には出さないがめちゃくちゃ浮かれている。電車までの帰路を一緒に歩く。
他愛ない話をしながら歩いていたらふと五色が立ち止まった。そしてあたりを気にしたように見渡す。あ、もしかして、なんて思っていたら五色の顔がどんどん近づいてきた。ここ外なのにまじかとギュッと目をつむる。しかしいつまでたっても唇に触れる感触は伝わってこない。変わりに頭のあたりからふわりとしたくすぐったい感触が伝わる。
「!?」
「なに驚いた顔してるんだよ」
もしかして頭にキスされた?なんて口にキスされると思っていた自分が恥ずかしくなる。カアっと頬が熱くなった。
「何赤くなって.......、あ、もしかして口にされると思ったのか?スケベ」
「ち、違うし!!第一紛らわしい五色が悪い!!」
五色はカラカラ笑った。そしておもむろに私の髪の毛を一房すくって口付ける。その一連の動作がかっこよくて見惚れる。髪の毛から五色の唇の感触が伝わってゾワゾワした。
「紛らわしくなかっただろ?」
「な、なにすんのよ!このスケベ!えっち!変態!!」
見惚れた事実が悔しくて五色にローキックをくらわせる。五色は「誰が変態だ!」とお冠だった。
「髪の毛は“思慕”を意味するそうだ」
「......ああ、キスする箇所のこと?」
こいつまだ引きずってたのかと五色を見る。するとこの前とやったことを思い出し顔が熱くなる。私は髪の毛で隠れた赤い痕をなぞった。
「あんた思慕の意味分かってるの?」
「バカにすんな、好きとかそんな意味だろ」
「んー、間違ってはいないのか?」
「で、お前はそんな俺に返すべきだと思わねえ?」
「は?」
五色は腕を広げた。
「どこでもいいからしてみろよ」
いっそ清々しいほどの笑みを向けられる。ここ外ですが、キスしろと?五色は腕を広げたままこてんと首を傾げた。くそ、可愛いじゃないか。180cmだいの大男のくせに。私は五色を引き寄せて背伸びする。頬に軽くキスをした。五色を離すと五色は満足そうに笑った。そしてスマホを取り出して意味を調べだした。
「頬は......、親愛だとよ。なんだよ、微妙だな」
五色は満足そうな顔を一変させて不満そうな表情になる。確かに親愛は恋人に対する感情じゃない気がする。
「なんか恋人っぽいのないの?」
「んー、愛情とか?」
「それいいじゃん。どこ?」
五色はニッと笑った。
「唇」
「は!?」
私は一気に顔が熱くなった。
「アホ!?アホなの!!?ここ外だけど!?するわけないじゃん!あほなの!?」
「誰もしろなんて言ってねーだろ」
五色はじと目で私を睨む。私はその目線から逃げるように目を泳がせた。
「そうだ、五色。ちょっとかがんで」
「?」
五色は不思議そうにしなからもかがんでくれた。私は背伸びして五色の側頭部あたりに口付けた。
「なっ!!」
「私も恋い慕ってるよ。五色」
ふわりと微笑むと五色は不意打ちを食らったように顔を赤くさせた。こいつはどうやら不意打ちに弱いらしい。これから予告なしにキスしてやろうかしら。......無理かな。私にはレベル高いや。五色は「くそっ」と呟いて膝に手をついた。
「なに」
「外で抱きしめたくなるようなこと言うなよ」
今まで散々髪の毛にキスしといて何をと思うも、私の頬は赤くなったのだった
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