五色くんと水遊び
夏休みに入った。夏休みになるとみょうじに会えなくなるなー、なんて考えたけど余計な心配だった。あいつは昼休憩くらいになるとひょっこり現れ、監督のところに将棋を指しに来る。そして昼休憩が終わるといつの間にかいなくなっている。監督じゃなくて友達の俺に挨拶くらいないのかと怒りたくなる。

監督にみょうじをとられたみたいで寂しい、なんて思ったりしてない。断じて。

今日も監督と将棋を指しているみょうじをみてため息がでる。

「はー」

「工どしたの?ため息なんかついて」

天童さんが俺の顔を覗く。俺は「なんでもないですよ」って言って覗かれている顔をのける。天童さんは俺がさっきまで見ていた場所を見て、「ははん」と言った。

「みょうじちゃん監督にとられたみいで嫌なんだろ」

「っ!。ちっがうっすよ!!なんであんなやつっっ!!」

「興奮するな、興奮するな。わかってるから」

「絶対わかってないですよね!!!」

「私がなに?」

天童さんと俺の間にいきなり現れたみょうじに俺と天童さんはびっくりする。なんだこいつ、将棋さしてたんじゃないのか!?

「将棋はどうしたの?」

「鷲匠さん長考にはいっちゃいましたから。暇で暇で」

そう言われて監督を見ると顔を真っ赤にしてうんうん唸っていた。

「で、私がどうしたんだすか?」

「みょうじちゃんが監督ばっかり構って工をないがしろにするから工が...」

「わー!わー!わー!!!」

俺はあらん限りの声量で叫ぶ。バレー部のみんなが何事かとこっみを見るがしったこっちゃない。みょうじはうるさそうに耳を塞いで「うっさい五色」としかめっ面だ。天童さんは至極楽しそうにニヤニヤ笑っている。

「そろそろ休憩終わりですよね?鷲匠さん止めてきます」

そう言ってみょうじは監督のもとに帰っていった。続きはまだ後日するらしい。みょうじが離れていったのを確認すると俺はキッと天童さんを睨んだ。

「なにを言うんですか」

「別に構わないだろ?事実じゃないなら」

俺は返事に詰まった。天童さんは口笛を吹く。ぶっちゃけあまり上手くない。そんな下手くそな口笛も俺のイラつきを加速させるには十分だった。

......

別の日の朝の休憩時間。俺は水道に来ていた。汗を流そうと頭から水を被るのだ。すると向こうからみょうじがやってきた。なぜ朝からいるんだろう。みょうじは水道で手を洗う。そんなみょうじを見ていたらつい手を出したくなった。俺は水道の蛇口を親指で抑え、ちょうどみょうじの顔に水が飛ぶように調節する。

「ぶっ」

水はみょうじの顔に直撃した。俺はいたずらが成功したことにニンマリする。

「...やったな五色この野郎。」

みょうじは蛇口を上に向けると俺と同じように親指で蛇口の口を塞ぐ。水は俺の胸元に当たった。

「あ、」

「てめー!服が濡れちまったじゃねーか!」

「も、元はと言えば五色のせいだし!あんたの身長が無駄に高いのが悪いんだし!低かったらちゃんと顔に当たったわよ!」

「なんだと!」

「なによ」

これが水遊び、もとい水の掛け合いの始まりだった。最初は怒りに任せてやっていたが、だんだん楽しくなってきた。それはみょうじも同じようで、楽しそうに俺に水をかける。他のバレー部や運動部は巻き込まれては大変と他の水道に向かった。少し悪いことをらしてしまったかもしれないが、童心にかえったようで、楽しいのだから仕方ない。

しばらく水を掛け合って、それは急に終息した。

気付いてしまったのだ、みょうじの下着が透けていることに。頬に熱が集中するのがわかった。俺が水をかけるのをやめると、みょうじも手を水道から下ろす。

「あーあ、着替えもってきてないから乾くまで外か。水浸しじゃ体育館も電車も乗れないもんね」

「夏だしすぐ乾くわね」と呑気に言う。問題はそこじゃない!女子としてきにするところが他にあるだろう!そう思うもみょうじは乾くまでそこにいるつもりらしく、水道に腰掛けた。「お前下着すけてんぞ!」と言うも、「だから何?」と聞く耳持たない。冗談じゃない、他の奴にこんな姿見せてたまるか。俺は自分の着替えをダッシュでとってきて、みょうじに投げつけた。

「ぶっ」

「着替えろ馬鹿たれ!!」

みょうじは顔面に直撃した体操服を緩慢な動作でとる。

「もっとマシな渡し方があるでしょーよ」

「うるせ!早く着替えてこい!」

みょうじはダルそうに立ち上がり、女子更衣室に向かう。俺はホッと胸を撫で下ろした。よかった、透けた下着姿なんて男子高校生にとって目の毒でしなかい。

なんて結果的に安心してられなかったのだが

更衣室からでてきたみょうじの格好はダホダボの体操服姿で目の毒だった。襟ぐりからのぞく鎖骨がなんとも艶かしい。みょうじはその格好で体育館に入ろうとする。

「お前今日は帰れ!」

「は?嫌だけど?せっかく五色が服貸してくれたんだし、将棋指して帰る。」

「将棋なんていつでも指せるだろ!目の毒なんだよ!」

「??。目の?なに?」

俺の訴え虚しく、みょうじは体育館に入り、二階にらあがる。昼休憩までそこで練習を見るつもりらしい。俺は何人のバレー部員がみょうじの格好を見るんだと気が気じゃなかった。

......

「お前なんで工の体操服きてんだ」

監督が明らかにサイズの合ってない服に気がつき、尋ねる。体操服の胸元には「五色」と書いてあるので俺のものってバレバレだ。監督、どうかみょうじを帰さしてください!と切に願う。他のバレー部員はみょうじをガン見したりチラチラみたりと落ち着きがない。こんな状態でいて欲しくない。

「制服水浸しになったんで五色が貸してくれました」

「そうか」

そう言って監督は将棋を指す。いやいや監督!「そうか」じゃないでしょ!他にもっと言うべきことがあるでしょ!!そう思って監督を睨むも俺の視線は将棋盤を見つめてる監督には届かない。しかし、願いが通じたのか、はたまた監督も気になっていたのか、監督は「その格好目の毒だぞ」と言った。

「それさっきも五色言われました。見苦しいってことですか?」

「んー、いや見苦しいっていうよりは...。まあおおむね間違っちゃいないが...」

「そうですか...」

「今日はもう帰ったほうがいいんじゃないか?」

「鷲匠さんがそう言うなら...」

そう言ってみょうじは将棋盤を片しにきかかった。よし!ナイス監督!!俺は心の中でガッツポーズをした。するとニヤニヤ笑った天童さんがこちらに向かってきた。

「よかったな、みょうじちゃん帰るみたいだぞ」

「...俺には関係ないっす」

「そう?俺はもうちょっといて欲しかったけどなー」

そう言われた瞬間俺は無意識に天童さんをギッと睨んでしまった。天童さんは大笑いして「そう睨むなよ」と言う。

「...別に睨んだわけじゃ」

「いーや、睨んだね」

天童さんはケタケタ笑う。睨んだことが逆に天童さんを愉快にさせてしまったようだ。

「五色」

後ろから声がかかる。そこにはみょうじがいた。ダホダボの体操服を着ていてやはり目の毒だ。

「体操服明日洗って返すから」

そう言って腕をあげる。手でごめんと言っている。あげた腕の裾から脇とブラが見えた。天童さんも見えたようで「おぉ」と歓声をあげる。俺は超速でみょうじの手を叩き落とした。

「痛ったい!なにすんのよ!」

「うるせぇ!隙だらけなんだよ!」

そう言うとみょうじは「わけわからん」とブツブツ言いながら体育館を出て行った。天童さんはニヤニヤ笑いながらこちらを見る。

「いいもん見れた」

初めて先輩に殺意が湧いた瞬間であった。


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