無意識じゃいられない

「お前好きな人がいるのか!」

「は?」

部活終わりの帰り道、工がキラキラした瞳で聞いてきた。

「昼休みのときに女子と話してるの聞いちまって、誰だよ。」

「.........。」

お前だよと工を睨む。工は気にした風もなく続ける。

「何で教えてくれなかったんだよ、俺とお前の仲じゃねーか」

「もう教えたんだけどね」

「は!?いつ!!?」

工はびっくりして目丸くする。そうだよね、私の告白を告白と受け取ってないんだよね、こいつは。

「なあ、俺のよく知ってるやつか?」

「まあ、よく知ってるんじゃない?」

「どんな奴なんだ?」

「愚直ならくらい真っ直ぐで素直な奴。あと告白しても気づかないくらい鈍い」

「告白しても気づかないとかどんな奴だよ。そんな奴のどこがいいんだ?」

「なあ」と工は楽しそうに続ける。

「いつから好きなんだ?」

「......10年前くらい」

「なが!どんだけ片思いしてんだよ!」

私はイライラしていた。なんなんだこいつは、何で自分の悪口言ってるんだ。てかなんでここまで言って気づかないんだ。工を睨むも工は眩しい笑顔で聞いてきた。

「で、誰なんだ?」

「..............工。」

「は?」

「だから!工!」

工はキョトンとしてすぐにふくれっ面になった。

「冗談きいてんじゃねーよ。」

「......っ」

イライラが最高潮になった。なんでこいつは私の恋心に気づいてくれない?どうすればいい?そう思うとついやってしまった。

私は工の胸ぐらを掴んで引き寄せた。そして私も背伸びをする。勢いつけすぎて歯がぶつからないように気をつける。工と私の唇が触れる。

「!!?」

「......冗談でこんなことしないから」

パッと胸ぐらを離す。すると工は警戒したように私から距離をとる。工の顔は真っ赤だった。ざまーみろ。

「お、おま!俺のファーストキ......!」

「あら、初めてだったの。ごめんね?」

「てめ...!」

工は文句を言いたそうだったが赤面して混乱しているのか言葉が出てこなかった。私は家が近くに来ていたので家の中に逃げ込んでやった。はは、私のことで一晩でも二晩でも悩めばいいよ。私は玄関に入ると自分の唇をそっとなぞった。

......

朝、いつもより早い時間に家を出る。なまえと顔を合わせないために、しかし隣からがちゃりと扉が開く音がした。

「な、なんで!?」

「工の行動なんて簡単に予測つく」

なまえはニヤリと笑った。そこからなまえは昨日のことなどなにもなかったように世間話しを始める。俺は上の空で聞いていた。......こいついつから俺のこと好きなんだ?確か10年前とか言ってたな。どんだけ長い期間俺のこと好きなんだよ!そういえば告白したとか言ってたけどいつされたんだ!?そういえば俺こいつにき、キスされたんだよな。......柔らかかった。って何考えてんだよ!頬に熱がじわじわ集まる。

「ちょっと、聞いてる?」

「あ゛!?」

なまえは俺の顔をじっと見る。

「なに赤くなってんの」

「なってねーよ!!」

なまえはクスリと笑った。その顔がどこか妖艶で、初めて見るような表情で俺はドギマギした。

「......意識してくれてる?」

「!!!」

口がはくはく開閉する。なんちゅーことを嬉しそうに聞いて来るんだ。性格悪!しかし事実で、今までただの幼馴染みと思っていたのに。こいつは俺のこと好きなんだと意識してしまう。俺は舌打ちしてなまえがついてこれない速度で歩く。

「ちょっと!速い!」

なまえは小走りでついてきて俺の背中をぐーで殴った。

......

「はあ」

朝練が終わり更衣室で着替える。すると俺のため息を目聡く見つけた天童さんが寄ってきた。

「どうしたの工?今日調子悪かったし」

そう、なまえの告白が気になって朝練に集中できなかった俺は今日散々だった。これじゃいけない。早く元に戻さなくては。すると獅音さんや白布さんも「どうしたんだ?」と寄ってきた。俺はみなさんに相談することにした。

「......なまえに告白されました」

「解散ー!!!」

天童さんが高らかに叫ぶと獅音さんと白布さんはじと目を俺に向けて着替えに戻った。

「集合ですよ!なに勝手に解散してるんですか!」

「だってお前、“今更?”って感じだし。のろけなら他所でやって」

白布さんがシャツを着ながら答える。今更ってどういうことだよ!

「のろけてません!本気で悩んでるんです!」

「好きなら付き合えばいいし、そうじゃないなら振ればいい。以上解散!」

「ぐっ!」

確かにその通りだ。悩む必要なんてない。でも俺はあいつのことどう思ってるんだ?どちらかというと好きだけど、恋愛として好きかと問われればわからない。ひとつ言えることは、キスされたとき嫌じゃなかった。じゃあ好きなのか?いやでもあいつは幼馴染みだし......。俺は頭を抱えた。だめだ、わからん。そんなことを悩んでる間にみんな「お先に」と出て行ってしまった。

「みんな冷てぇ......」

俺も着替えて部室の鍵を閉める。部室からでるとなまえがいた。

「なっ......!」

「遅かったね」

今最も会いたくない人がいて俺は動揺した。昨日のことを思い出してしまいなまえの唇に目が行く。頬がじわりと赤くなる。

「なんで......!」

「意識してもらおうと思って」

「は!?」

「好きだよ」

ふわりとなまえは笑う。その顔が愛おしいものを見るようでいたたまれなくなって恥ずかしくって俺は目をそらした。なまえはカラカラと笑う。

「進歩!進歩!今まで全く意識されてなかったからね!これからはガンガンプレッシャーかけてやるわ!」

「お前恥ずかしくないのかよ」

「恥ずかしいに決まってるでしょ」

なまえをそっと見るとなまえも顔が赤かった。そこまでして俺に好きって言う理由ってなんだろ。そんなに俺のこと好きなのかな。いかん、ほだされるな!俺は首をブンブンふった。

「ほら!授業始まる。早く鍵返しに行くよ。」

そう言って俺の手首を掴む。掴まれた部分から熱が広がるようだ。俺はその手を振り払うことができなかった。

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