麗日くんと峰田くんと梅雨ちゃんくんとみょうじくんと共に観客席に行く途中、緑谷くんの治癒を施しているときのみょうじくんを思い出す。いきなりキスしだしたときはびっくりした。治療のためだろうということは予想ついたが、まだプロにもなっていないのに治癒のために口にキスできるものだろうか?と疑問に思った。緑谷くんとみょうじくんはどこか友達以上のなにかを、絆のようなものを感じる。
それにしてもみょうじくんの個性の強さには驚いた。あの大怪我を数秒で粗方治してしまうなんて。チラリと横目にみょうじくんを見る。緑谷くんに治癒を施してから真っ青な顔色をしていて、そこが心配だった。
……
なまえに治癒された後、リカバリーガールにも診てもらい、もうリカバリーガールが治療するほどじゃないというお墨付きをもらったので、観客席に向かう。リングではかっちゃんと切島くんが戦っていた。
「緑谷くん!怪我はもういいのか?」
「うん、リカバリーガールにも診てもらって大丈夫ってお墨付き」
そういうと、何とも言えない気まずい沈黙が流れた。
「びっくりしたぞ」
「うん、僕もびっくりした」
怪我を治癒するためになまえは僕の口にキスしてみせた。あんな沢山の人が見ている中でできるなんて、なまえには羞恥心がないのだろうか。わかっている、僕のためだってことは。でも、なまえは大怪我している人がいたら、迷わず口にキスするのだろうか?そう思うと、どす黒い感情が僕を支配した。ヒーローとしては間違っていない。むしろ大正解だろう。それでも、誰彼構わずキスするなまえを想像したら、どうしようもない感情に包まれた。それを嫉妬心と呼ぶなんて、この時の僕は気づけずにいた。
「…なまえは芦戸さんに勝ったの?」
「ああ。だが、いつものみょうじくんじゃなかった。」
「!!。どういう…」
言い終わる前にかっちゃんと切島くんの戦いは終わってしまった。かっちゃんの勝ちを見届けると、飯田くんは「行ってくる」と控室のほうへ消えた。この後、どういう意味なのかを僕はすぐ知ることになる。
……
「爆豪勝己、対、みょうじなまえ!」
ついにこの日が来たと、俺は口角が上がるのが分かった。
「よお、みょうじ、ついにてめぇに吠え面かかせてやる日がきたぜ」
「…できるといいね」
「?」
みょうじはよく見ると、顔が真っ青で心なしか息も荒い。
スタートの合図がかかる。
「死ぃねえ!!」
俺は手のひらからみょうじに向かって爆発させようと構える。しかし、攻撃しようとした直前、みょうじが口を手のひらで抑えてて膝をついた。
「かっ…は、」
目を凝らさなくてもわかる程、指の間から血が零れでていた。…吐血している。俺は目を見開いて固まった。常闇戦も、芦戸戦も、吐血するような傷は負っていない。そういえば芦戸戦の時、動きに切れとスピードがなかったなと思い出す。なにかあったのか。
「みょうじさん、もうやめておきなさい」
「…いやだ。」
みょうじは強情な、固い意志でそう言った。そしてフラフラと立ち上がった。
「ごめん、かっちゃん。試合止めた。戦ろう」
「何言ってんだ」
俺はズカズカとみょうじの間合いの内に入った。こんなこと、普段のみょうじなら許さないだろう。みょうじは俺の顔面にパンチを繰り出す。その動きもいつもより格段に鈍く、避けることが可能だった。俺はみょうじの胸ぐらを掴む。
「ふざけんじゃねーぞてめぇ!体調不良でフラフラの相手に勝ったって意味ねぇんだよ!!」
「悪くない!!私は戦れる!!」
みょうじが俺の胸ぐらを掴み返してそう叫ぶ。しかし、その掴んだ力は弱々しく、それが更に俺をイラつかせた。
「自分の体調もわからねーバカはヒーローなんて目指すな!!このクソ野郎が!!」
「うるさい!!私は勝つ!!勝つんだ!!だって、そうしないと…」
みょうじは小さな小さな声で言った
「捨て…られるから?」
自分でも理解していなさそうな声音だった。俺は訳が分からなかった。
掴んでいた胸ぐらを突き飛ばすように離す。みょうじはよろけて離れていった。
一部始終をみていたミッドナイトが鞭を振り上げた。
「みょうじさん戦闘不能とみなします!勝者、爆豪くん!」
「な!」
みょうじが不満と怒りで満ちた表情でミッドナイトを見る。
「私!まだやれます!まだ!!」
ミッドナイトに食ってかかるみょうじはいよいよ鼻血まで出し始めた。それを見たミッドナイトは、眠り香でみょうじを眠らせた。
「しょーもねぇ…」
こんな形で勝ちたかったわけじゃない、吠え面をかかせたかったわけじゃない。リング上で眠っているみょうじに次は万全な状態で勝たせてもらう、と固く誓った。