「常闇踏陰、対、みょうじなまえ!!」
プレゼントマイクのコールで試合がスタートされる。私は常闇くんの懐に入るために速攻を仕掛ける。
「ダークシャドウ!!」
「あいよ!」
ダークシャドウが突進してくる。私はそれを避けつつ常闇くんに近づく。ダークシャドウは避けた私を追いかけて私の左腕を噛む。そのまま場外に押し出そうとするから私は噛まれた左腕を無視して常闇くんの方へ進もうとした。
「このまま突き進めば腕が千切れるぞ!」
常闇くんが威嚇するようにそう叫ぶ。ダークシャドウは私の左腕を離さない。
「いいよ、千切れても」
「!!!ダーク……」
私がそう呟いた瞬間、私が本気だと気づいた常闇くんはダークシャドウに私の左腕を離すように指示し、自分の懐へ戻るように言おうとするも1歩遅く、私の左腕が空を舞う方が早かった。
会場から悲鳴が上がる。常闇くんは驚愕して一瞬体が固まった。その隙に私は常闇くんの間合いの内に入り込み、右腕で鳩尾を思いっきり殴った。常闇くんが吐瀉物を吐いて蹲る。立ち上がろうとするも、完璧に入ったので立ち上がれないだろう。
「常闇くん戦闘不能!勝者みょうじなまえ!」
会場が悪い意味でざわつく中、私は左腕を拾いにいった。そして個性を使う。シュワシュワと炭酸の弾ける様な音をたてて私の腕はくっついた。別に腕を新しく作ることもできるが、くっつけた方が力を使わなくて済むから今回はくっつけた。軽く腕を動かして可動域に問題がないことを確認する。
客席から強い視線を感じて見上げてみると、出久くんが険しい顔をしてこちらを見ていた。険しいところが気になるが、私は出久くんに手を振った。
「……………。」
出久くんは私に手を振り返すことをなく、どこかに行ってしまった。私は出久くんの態度を不思議に思いつつ控え室に戻った。
……
控え室に入ると出久くんがいた。出久くんの顔は怒っていて、私が控え室の扉を閉めると低い声で言った。
「……なんであんな戦い方したの」
「?」
訳が分からず首を傾げる。出久くんは私の横の壁をバンと殴った。その行動に目を見開く。
「あんな、自分を傷つけるような……!なまえならあの時ダークシャドウを避けられたし、腕を犠牲にしなくても勝てただろ!?」
出久くんはこみかみに青筋を立てていて、ブチ切れているのがわかる。私はなんで出久くんがそこまで怒っていいるのかがわからなかった。
「でも、腕を犠牲にしたからより簡単に勝てた。それに、どうせ治せるし……」
そう言うと、出久くんはさらに目を怒らせた。私を詰ろうとしたのか口を開くけど、発した声は言葉にならなかった。出久くんは怒っているけど泣き出しそうな表情をした。手をついていた壁から手を放す。
「…っ、なまえはさ、僕がどうせな治るからってわざと大怪我するような戦い方しても、平常でいられる?」
「!!」
「僕は無理だ。だから、もうあんな戦い方するのはやめてほしい。」
正直出久くんの言うことは理解できなかった。私と出久くんの価値は全然違う。私はいつ死んでもいい。でも出久くんは違う、最高のヒーローになる責務がある。でも、出久くんが哀しんでることだけはわかった。だから、私は頷いた。
……
「君の!力じゃないか!!」
出久くんがボロボロになりながら叫ぶ。轟くんはそこから憑き物がとれたように闘争心むき出しで戦った。結果は轟くんの勝ち。出久くんは保健室に運ばれていった。
「出久くんめ、言ってることが違うじゃないか」
自分は自分の力で自分を傷つけるのを良しとして、人にはあんなことを言うなんて。なんて勝手な人なんだろう。私は自分の額に青筋が立つのを自覚しながら保健室に向かう。
「うるさいよホラ!心配するのはいいがこれから手術さね」
「シュジュツー!!?」
保健室に入るとすでに居たお茶子ちゃんと飯田くんと峰田くんと梅雨ちゃんがそう驚いていた。
「手術…?」
眉をひそめる。リカバリーガールはまずいと言った風に額に手を当てた。
「またアンタかい」
「どういうことですか。」
「あたしゃ何も言わないよ、自分で調べな」
言い終わる前に私は出久くんの触診をはじめた。周りが少しざわついた。リカバリーガールがいるのになんでということだろう。無視して診る。
「なまえ!リカバリーガールが治してくれるから!」
「右腕の粉砕骨折、これキレイに治せるの?」
ジロリと出久くんを睨むと、出久くんは気まずそうに黙った。私は傷を治すべく、力を貯める。
「前回の傷の時より酷いよ。あんた、前回数時間眠るほど疲労困憊していたのに、試合はどうするんだい?」
「うるさい」
私の試合なんてどうでもいいの。今は出久くん。一刻も早く治してあげなきゃ。その衝動が私の体を動かした。
「なまえ!!本当にいいから!!」
「黙って」
はあーと息を吐く。そして私は出久くんの唇にキスをした。出久くんは目を見開いた。酷い傷のときは口にしないといけないと知らなかったからだ。周りが息をのむのがわかる。構ってられるか。出久くんの体内に個性を流す。傷口がシュワシュワと音を立てて治っていく。出久くんは抵抗したくても動かせるのが右足だけなのでなにもできずなされるがままだった。
しばらく炭酸が弾けるような音だけが保健室に鳴り響いた。ピクリと出久くんの指が動く。粗方治ってきて指を動かせるようになったのだろう。出久くんは自分の両腕が動かせることに気づくとすぐに私の両肩をつかんで引き離した。
「も…、いいから…!」
「でもまだ完璧に治ってな…」
「いいから!!!!」
出久くんは布団を頭からかぶってそれ以上の会話を拒否した。私は不満だったけど、動けるようになった出久くんにキスし続けるのは不可能に近いと思い、出久くんのベッドから降りた。降りるときに床になにもないのにこけてしまった。息をのんで静観していた周りが心配そうに手を貸してくれた。
保健室をでる。
「なまえちゃん大丈夫?」
「え?」
お茶子ちゃんが心配そうに私の顔を覗いた。
「顔真っ青だよ」
「真っ青……」
正直、めちゃくちゃ辛くて今すぐに倒れこんでしまいそうだった。でも、試合にはでないと。出久くんが見てくれるだろうから、だから私は頑張って勝たないと。