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出久くんが決意して数ヶ月たった。外で訓練をしているようで、家に帰るとヘロヘロと倒れ込みそうになっている。
ヘロヘロになりながらもお風呂上がりの柔軟はかかさない。私は前屈をしている出久くんの背中を押した。

「わっ!なまえ!?」

「出久くん最近頑張ってるね」

出久くんは、へへっと照れくさそうな笑った。きっと誰かに背中を押されてヒーローになる訓練を始めたのだろう。それが嬉しくて、悔しい。私がどんなに背中を押しても響かなかったのに、どこかの誰かは出久くんをその気にさせたのだ。
出久くんの柔軟を手伝っていると、ふとTシャツから覗く肩口に小さな傷があることに気づいた。
悔しくて、腹が立ったので、ほっといてもそこまで痛くないだろうし、すぐ治るだろうけど、私はそこにキスをした。

「ほあ!!!」

出久くんは体をビクつかせた。傷はシュワシュワと音を立てて治っていった。

「なまえ!!びびびび、ビックリするからいきなりはやめて!」

出久くんは顔を真っ赤にさせて自身の心臓を抑えている。私は出久くんを動揺させられて少し溜飲が下がった。

「なんでこんなところに傷できるの?」

「へ?ああ、えっとね、海浜公園でゴミ掃除してるんだよ。肩にゴミ背負った時に傷ついたんだろうね」

「海浜公園……?」

そこでゴミ掃除と称して訓練してるのかな?と出久くんの背中を押しながら考えた。

「手伝いに行こうか?」

「いいよ、僕一人でしないと意味ないから」

出久くんはあの時と一緒の決意に満ちたキラキラした瞳でそう言った。私は、「そう」と返したけど、覗きに行きたいなあ、でも見に行ったら怒られるかな?と我慢する事にした。

……

受験が無事終わり、1週間が経った。出久くんは晩御飯の魚と微笑みあっていた。
引子さんが心配そうな出久くんに声をかける。

「大丈夫だよ、出久くん。出久くんは受かってる」

「うん……、ありがとう。」

出久くんはボケッと生返事でそう返す。ご飯の後片付けを終わらすと、引子さんが郵便物を見に行く。
バタバタと帰ってきたと思うと、引子さんは出久くんに雄英の合否結果を渡した。

「なまえちゃんも、はい」

「ありがとうございます」

引子さんはソワソワと私と出久くんの部屋の方を交互に見た。居候の私の心配もしてくれてる辺り、引子さんはとても優しいなあと思った。私はその場で開けて雄英の合否通知をみた。(ヒーロー科じゃなくても良かったが、自分の身体能力を生かせるのは雄英科だと思い、そこにした)結果は合格。試験の時に再認識したが、私はどうやら通常の人よりずっとずっと身体能力が高いらしい。出久くんにも「どうやったらそんな訓練こなせるの?」と羨ましそうに、驚愕したように言われた。戦闘向きの個性じゃないが、体術だけで十分ヒーローをやっていけるくらいにはできるつもりだ。

ガチャリと出久くんが部屋から出てくる。その顔はとても嬉しそうで、合格したんだと分かった。引子さんが信じられなさそうに出久くんに近づく。

「受かったよ」

「出久ぅうううう!!!!よかったねぇえええええ!!!」

引子さんの双眸から滝のような涙が流れた。私はニッと笑って出久くんの傍によった。

「知ってたよ」

「なんで知ってるんだよ」

出久くんは苦笑する。私があまりにも合格を疑っていなかったので少し呆れているのかもしれない。

「だって、出久くんは私のヒーローだもの」

「!!」

出久くんは目を見開いて、頬を少し赤くさせた。そしてニッとはにかんだ。

……

春、入学式の日。私と出久くんは学校に向かう為に家を出る。

学校に着き、教室のドアを開ける。

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないないと思わないのか!?」

「思わねーよ、てめーどこ中だよ、端役が!」

「………………」

かっちゃんとメガネをかけたクラスメイトが言い争っていた。もうイキってるのかと可哀想な者を見る目でかっちゃんを見ていたら、かっちゃんはこっちに気づいたようでギロリと私を見睨む。

「みょうじ……!」

かっちゃんは椅子から勢いよく立ち上がると、ズカズカと私に歩み寄った。

「てめえは絶対雄英にいる間に吠え面かかせてやるから、覚えておけよ…!」

出久くんが雄英を受けるとかっちゃんが知った日、私が初めて出久くんを庇った次の日に怖がらせてごめんなさいと謝った時からかっちゃんに敵対視されるようになった。めんどくさいな、謝らなければよかったなとかっちゃんの高いプライドにうんざりした。

ふと出久くんを見るとクラスメイトの可愛い女の子と話していた。顔が真っ赤で、そのことがなぜか面白くなくて、かっちゃんがなにか喚いていたけどちっとも頭に入ってこなかった。

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

そこに担任と名乗る先生が入ってきた。相澤先生は体操服を着てグランウドに出るように促す。
そこで言われたことは個性把握テストを実施するということだった。最下位は除籍処分にすると途中から言われた。
1種目ずつこなして行く。私の個性じゃ大記録は狙えないけど、日頃の鍛錬のお陰で常人じゃだせない記録をだして、上位にはなれないけど最下位にもならない程度の点数を叩き出していた。
出久くんを見ると、焦りと不安がない混ぜになった表情をしていた。そういえば個性発現したと言っていたけど、私はまだみたことがない。このテストで見ることができるのだろうかと、本人はそれどころじゃないだろうが、少しワクワクした。

第5種目、ボール投げ。出久くんは二投目で大記録をだした。ビックリし過ぎて無意識に口があいた。それはかっちゃんも同じで、呆然と出久くんを見ていた。

……本当に個性発現したんだ。何でかはわからないけどよかったねと、出久くんを祝福する。

「どーいうことだ!こら、ワケを……。!!!」

隣で殴りかかる勢いで出久くんに迫ろうとするかっちゃんの足を引っ掛けてこかす。かっちゃんは頭から勢いよくすっ転んだ。

「ぐえ!」

受け身はとれるだろうけど念の為に、私はかっちゃんの首の後ろ襟を掴んで頭から落ちないようにする。かっちゃんの首が閉まってカエルがひしゃげた様な悲鳴がでた。

「なにしやがる!」

「何しようとしてやがる」

かっちゃんの言い方を真似てみると、かっちゃんは「あ゛あ!?」と怒って見せた。

「なまえ、よくやった。時間がもったいない。次、準備しろ」

相澤先生はキロっとかっちゃんを睨んだ。これ以上なにかするなよという警告だろう。かっちゃんはそれ以上なにも言えずに苦々しそうに舌打ちした。

全種類が終わり、相澤先生が除籍は嘘だと言うと、クラスメイトたちはええー!と奇声を発した。かくいう私も、まじかあ、雄英すごいなと驚いた。

出久くんが相澤先生に保健室利用書をもらっていたのを目ざとくみつける。保健室に行こうとする出久くんの肩をトントンと叩く。

「なまえ、なに?」

「それくらい私でも治せる」

「!?」

かっちゃんが帰ろうとしていたところをぐりんとこちらを見る。なんなんだとその視線を無視する。そういえば、かっちゃんや中学のクラスメイトたちには個性見せてなかったかもしれないな今更思い至った。
出久くんは顔の前で手をぶんぶん振った。

「いいい、いいよ!!リカバリーガールのところに行くから!!」

その反応にムッとする。私じゃ力不足ということか?怪我をした右手首をガッと掴む。

「……リカバリーガールは治癒力活性化で患者の体力使うけど、私は使わない」

「いいって!!」

出久くんは、腕で顔を隠すようにして叫ぶ。なんだなんだと飯田くんと麗日さんが寄ってきた。頑なに拒もうとする出久くんに腹が立って私は出久くんの腫れ上がった指を軽く触った。

「痛っ!」

痛みでできた隙を私はつく。出久くんの怪我をした指にキスをする。その行動に集まった2人が息を飲むのがわかった。シュワシュワと炭酸が弾ける様な音がして、出久くんの指は元の指に治っていった。
指から唇を離すと、飯田くんと麗日さんは、はあーと感嘆のため息をついた。出久くんは左手で顔を覆っていた。かっちゃんは一部始終を見終わったら舌打ちして帰っていった。
出久くんの右手から手を離す。

「ありがとう……」

全く有難くなさそうな低い唸り声のような声音で出久くんは私にお礼を言った。そして左手で顔を覆ったまま、リカバリーガールの処置後のようなヘロヘロとした動きで更衣室に消えていった。

「耳、真っ赤だったね」

「へ?」

麗日さんが出久くんが消えた方向を見ながら言う。そしてぐりんとこちらを見た。

「すごいな!みょうじさんもリカバリーガールみたいな治癒系なん!?」

「うん」

「ヒーローになったら活躍の場がたくさんあるだろうな!素晴らしい!」

飯田くんがそう言ってばしばしと私の背中をたたく。……そうだね、ヒーローとしてはたくさん活躍できるだろうね。

そう思って、チリッとなにかが記憶をかすめる。頭が少し痛くなるような感覚。咄嗟にこめかみを手で抑えた。

「どうしたんだ?」

「なんでもないよ」

なんだったんだろうと、自分の感覚を不思議に思った。

……

みょうじが治癒系だって…?

デクの治療の様子をみていて驚愕した。だって俺はみょうじは身体能力増強系の個性だと思っていたから。
アイツの身体能力は常軌を逸している。なのに、それが個性じゃなかった。そのことに焦りを覚える。
デクの治療中の様子を思い返す。指にキスをした瞬間、見る間にデクの指は治っていった。そのスピードから個性の強さが伺える。
思わず舌打ちをした。

中学の時の殺気といい、みょうじ、あいつは何者なんだと、幼なじみの家に居候している少女に思った。

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