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シンコンさんごっこ



「新婚さんごっこしよう!」

ある日の昼下がり、僕の友達はいきなりそんなことを言い出した。シンコンさんってなんだろう?意味はわからなかったしなにをどういう風に遊べばいいのかわからなかったけど、僕は頷いた。せっかく僕の友達になってくれたのだからこの子の願いはできるだけ叶えたかった。頷いた僕を見るとその子は嬉しそうな笑顔になった。

「じゃあ我愛羅お嫁さんね!」

「……へ?」

お嫁さん?なんでお嫁さん?僕は男なんだけど、ていうかシンコンさんごっこってなにをすればいいのか全然わからない。先に聞いとけばよかったと後悔しても後の祭りで、シンコンさんごっことやらは進んでいく。

「ただいま奥さん!」

「お、おかえりなさい」

分からないなりにそう僕が返すと彼女はソワソワしだした。なんだと首を傾げると、彼女は「もー!」と少し頬を膨らませた。

「そこは“ご飯する?お風呂にする?それともわ、た、し?”でしょ!」

「ええ!」

聞いたことあるぞそのセリフ。テレビで見た。確か夫婦間で言うやつだ。ということはシンコンさんって夫婦のこと!?今更思い至って顔が熱くなる。というかそんな恥ずかしいセリフを言わせる気なのか?断ろうとするも、彼女の目はキラキラと期待に輝いていた。そんな目で見つめられると断りづらくなってしまう。

「……ご飯にする、お風呂にする……そ、それとも……、僕?」

小さな小さな声でそう言うと彼女は更にぱあっと顔を輝かせて「我愛羅!」と僕に抱きついた。そのことに僕は赤面する。アワアワ慌てていると彼女は「んん?」と首を傾げた。

「でもこの後なにすればいいの?」

「知らない」

僕が見たテレビでは夫が「飯!」と元気よく言ってて妻に殴られていたっけ。彼女は「まあいいや」とその先を諦めた。

「じゃあ次ね!」

まだやるのか、正直もうやめたい。恥ずかしい。そう思っても彼女はキラキラした瞳でとんとんと自分の頬を示した。意味がわからず首をひねる。

「おかえりなさいのちゅーして!奥さん!」

「いやだよ!」

思わずそう叫ぶと彼女はわざとらしく悲しそうな顔をした。

「昔はしてくれたのに、もう俺たちの間に愛はないんだな」

勝手に設定をつくりだしてさめざめ泣くふりをする。いやいやいくらごっことはいえ頬にキスはできない。僕はそう思っても彼女はそう思ってくれないらしく、顔を覆っている指の隙間からチラチラ僕を見る。

「じ、じゃあキミがお嫁さんやってよ……、僕はできないよ」

「わかった!」

彼女は仕切り直しと言わんばかりにコホンと咳払いした。

「おかえりなさい!あなた!」

「う、うん。ただいま」

「ご飯にする?お風呂にする?それとも私!?」

「ご飯……」

僕がそう言うと彼女は頬を膨らませた。しかしすぐに気を取り直して頬にキスしようとする。僕はそれを慌てて避けた。だって恥ずかしいし、しかしそれがお気に召さなかったらしく、彼女は頬を膨らませた。

「なんで避けるの!」

「だって……」

彼女はむうっと頬を膨らませる。

「もうやめよう……」

これ以上恥ずかしいことはしたくないしされたくない。そう思って提案してみると彼女は不満そうにしつつも了承してくれた。

……

ベッドの中で昔のことを思い出す。おもわず笑い声が漏れた。すると俺の妻はベッドの中で顔だけだして不思議そうに俺を見た。

「どうしたの?」

「いや、昔のことを思い出してた」

俺は新婚さんごっこのことを話すと俺の妻は恥ずかしそうに頬を染めて頭を抱えた。

「う、うわー!なんでそんなこと覚えてるの?忘れて!ませてたんだよあの頃は!」

前日に新婚がテーマのドラマを見てやりたくなったということを今更知った。隣で寝ている妻を抱き寄せると妻はビクリと体を固くした。触れ合う素肌が気持ちいい。妻は未だに慣れないらしく、恥ずかしそうに頬を染めた。昔とは立場が逆転しているなとおかしくなる。

「本物の新婚になったのに今はあのセリフを言ってくれないのか?奥さん」

「へ!!?」

アワアワと慌てる妻が可愛くて笑みが漏れる。

「今は“お前”だと答えるが」

「っ!」

耳元でそう囁いてやると効果音がつきそうなほど頬を赤くする。妻は俺の胸板に顔を埋め、少し不貞腐れた声で言った。

「……我愛羅昔はアワアワしてて可愛かったのに」

「今の俺は嫌いか?」

「大好き」

そう伺うようにチラリと俺を見る。俺は妻の唇にキスを落とした。妻からゆっくりと顔を離すとパチリと目が合う。妻の瞳は物欲しそうに揺らめいでいた。

「なんだ?」

わかっててわざとそう聞いてやると妻は「意地悪」と瞳を揺らがせたまま呟いた。俺は顔をぐっと妻に近づけて唇がくっつきそうな所で止めた。しゃべればそれだけで触れ合いそうな距離だ。

「っ、」

妻はゆっくりと唇を触れ合わせ、すぐに離れようとする。しかし俺は妻の後頭部を手で固定してそれを許さない。段々深くする行為に妻から甘い声が漏れた。その声を聞くだけで理性が壊れそうになる。もっとしたい、もっと、もっと。妻は苦しいことを主張するように俺の胸板を叩いた。俺は名残惜しく妻から口を離した。

「ばか!えっち!スケベ!」

顔を真っ赤にしてそう罵倒される。舌は予定に入ってなかったのだろう。

「嫌だったか?」

「……嫌じゃない」

私もスケベだ、と妻は幸せそうに苦笑した。


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