第9回 | ナノ
「大っ嫌い!」
「突然、どうしたのさ」




幸村となまえの喧嘩は有名だ。
暴力傍観のなまえと天使の幸村精市。二人は従兄弟ということもあって似た容姿をしている。お互いにテニスをするし、病気のタイミングも大概一致する。
ただ機嫌を悪くするのが早いのはなまえだ。
ベッドの上で大人しくしていた幸村の寝間着の襟を容赦なく掴むと睨み付けながら平然と受け止めた幸村に顔を近づけた。




「なんで僕に黙ってこんな大病患ってるの?」
「さすがに免疫系統はすぐにはなまえにも移りにくいのかな?」
「多分、いずれ僕もなるよ。免疫系統も似てるって医者のお墨付きなんだから」
「それはすまない。俺はテニスをする機会が多い。だから運動量も人より多かっただけさ」
「精市のばか!」




そう言うと襟を更に引っ張り、唇を重ねた。突然だった為に驚きが勝ったが、幸村はゆっくり目を閉じ、なまえの舌を受け入れた。
くちゅり。
唾液が音が立つほど深く舌を絡め合うのは病室に相応しくないだろうが、二人は気にしない。




「……なまえの馬鹿」
「なんで?」
「俺、今動けない」
「あぁ、抱いて欲しいの?」
「うん」




幸村は素直に頷くとなまえは微かに笑っていた。
まずは邪魔なロール式のテーブルを退かし、なまえが跨がる。




「精市、いいんだな?」
「そんな聞き方嫌だっ」
「悪い悪い」




幸村は案外、自分で選ぶということに慣れていない。生粋の長男教育を両親がしたせいで素直に感情表現が苦手なのである。
だからこうして入院していることに罪悪感さえ感じている。本人も薄々感ずいている。治る可能性なんてほとんどないことを。
だからこうしてなまえを求めるように素直になれていた。
パジャマのボタンをはずし終えると綺麗な白い肌が現れる。




「……やっぱりそそるな」
「ふふふ、それはなにより」




幸村はそれすらも悦びに感じた。
そこに淡く色づいた突起を微かになぞる。むず痒いのか幸村の身体はシーツに波打つ。




「なまえは俺を愛してくれるよね?」
「愛してなきゃ、こんなことしないよ」




散々指でこねくり回して、紅く膨らんだ突起を口に含んで転がせば、素直に声をあげる。
それは見事に悦楽を含んだ声だった。




「ん…っ、あぁあ」
「きもちいい?」
「きもちいい、だか…らもっとっ」




この素直さは入院してから特に増えた。両親が来ている時は然程、冷静さを保つ。しかしなまえと二人きりになるとすぐに甘えてくるようになった。
病室の外が急に騒がしくなった。




「はぁ…」
「精市、お預けだ」




いつもいつもいいつも邪魔されている気がした。
幸村は外されたボタンを付け直し、なまえは面会謝絶の札を取れば、次々に流れ込んでいく。立海のレギュラー陣と話すのが嬉しいのか、笑みが自然と溢れている。面会時間ギリギリになるレギュラー陣と幸村になまえはいつもイライラする。そんななまえを見て、幸村は笑みを浮かべて喜ぶ。
たまに逆の感情を浮かんでいたりするが、それは一人の時かなまえと共にいる時だ。
日に日に軽くなる体重。幸村が軽くなるからなまえも軽くなる。




「…精市、」
「……わかった…。今日ももう遅い時間だ。真田、皆を頼んだよ」
「承知してる」




幸村が部長の顔を取り戻す。
テニスがしたい。誰よりも今ここにいるレギュラー陣より思っている筈。




「真田、ありがとう。精市の為にも言う」
「友を思うことになにかいるのか? なまえ」
「そうだね」






あなたはあたしを愛せますか?
(愛します)(この状態でも)
(愛されました)
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