眠い。 きっと目の前のコイツはそう思っているはずだ、その証拠に目に見えてうつらうつらしているんだから。──まあ、こんなに暖かいんじゃ仕方ないけれど。 だからって、彼女を部屋にあげたまま寝ちゃうかなあ……もう。 「……眠いの?起きてる?」 うーとかおーとか、返事にもなってない声が返ってきて、ちょっときゅんとした。だっていつもはもっとぴりってしてる。うん、満足。 影山の部屋はあまり物がない、と私は思う。それとも男女の差ってやつなのかな。必要最低限のものと、バレー関連のもの。それだけ。 「寝るならベッドにしなって、身体痛くなるよー?」 床が広いから確かに寝ちゃうことも出来るけれど、やっぱり固いよね、床。いくら春とはいえ床自体はそんなに温かくもないし。 そう思って声を掛けたが、影山はその場で寝ることを選択したらしい。反抗するっていうよりも単純に動くのが面倒だったんだろう。 もぞもぞとまるくなる影山が可愛く見える。……寒いのかな。 何かないかなー、と辺りを見回す。本当にものがないなあ。と、そこにあった影山のジャージを手にとってかけてあげる。 寝ている影山はとっても無防備だと私は思う。いつもはあんなにぴりぴりしてるクセに、こんなときだけ可愛くなっちゃって。狡いよバカ。 「疲れてる、よね……」 いつもストイックな彼のことだ、そりゃあ疲れだって溜まるだろう。そしてちょっぴりおバカさんだから、休もうともしないのだ。 影山の髪を指で梳くと、つっかえることなくサラサラと元に戻る。 隣に寝転んで見ると、影山の顔がすごく近くにあった。……そっか、いつもは身長差があるもんね。 ぴっとりくっついてみる。いつもは抱きしめてくれないもんね、この恥ずかしがり屋さんめ。 影山は意外に体温が高いのかな、温かかった。 幸せだなあ、温かい。そんなことを考えながら影山にくっついていたらもそりと影山が動いた。ぎゅうと抱きしめられる。 影山の胸板が視界いっぱいに広がって、影山の息が耳にかかる。 とりあえず抜け出そうと試みてみるものの、ぎゅうとがっちり回された腕はほどけそうにない。 「………………なまえ」 影山がそう呟いたのが聞こえた。 それを聞いた瞬間、抜け出そうと試行錯誤しながら動いていた私の身体はぴたりと止まってしまった。 ああもう、本当に狡い。皆の前ではみょうじとしか呼んでくれないくせに、こんなときだけ名前で呼ぶなんて。 なんだかどうしようもなく嬉しくなってしまって、抱きしめられたままになる。 影山の体温が心地良くてだんだんと瞼が落ちてくるのがわかった。 ああ、このまま寝たら、起きたとき絶対身体痛いよなあ。 そうは思うのだけれど、睡魔には適わないことは日頃の経験からちゃあんと理解している。 とくん、とくん、と規則的に刻まれる心音が眠気をいっそう誘う。これは私の心音だろうか、それとも影山のか。まあ、どちらでも構わないのだけれど。 影山のぬくもりに包まれて、私は眠りに落ちた。 目を閉じきった瞬間、影山がもう一度名前を呼んでくれた気がしたけれどそれすらも定かではない。 ただ、ものすごく幸せな夢をみれるような予感がした。 (おやすみなさい) |