第7回 | ナノ
あ、まずい。と思ったのはかくんと一度無意識の内に頭が前に傾いでからだった。右隣に座る征十郎がそれを見て笑う気配がする。地味に恥ずかしい。

不規則に揺れる電車の中は、朝っぱらから始まった練習試合の帰りという中途半端な時間帯のせいかガラガラだ。一つの車両に五人いるかどうか。それは私たちの乗っているところも例外でなく、その上バスケ部内でこっちの方面に住むのは征十郎しかいないため車両内はほとんど二人きり状態。
ちなみに私は部員でもマネージャーでもなく、観戦兼応援に来た征十郎の彼女というスタンスだからバスケ部にはカウントされない。

そんな他愛ないことをつらつら考えながら睡魔に屈しまいと奮闘していると、未だ微かに笑みを含んだ征十郎が尋ねてきた。


「眠い?」

「うーん…まぁちょっと」


私は早起きが得意なタイプじゃない。それでも試合中は熱気に包まれて選手でもないのにアドレナリン大放出という勢いで興奮していたから眠気なんて引っ込んでいたけれど、それが済んでこうして穏やかなリズムで揺られているとじわじわと睡魔が手を伸ばしてくる。一度眠いと思ってしまうと尚更だ。加えて、何にも遮られていない窓から差し込む柔らかな陽光もそれに一役買っていた。

本当は誘惑に逆らわず眠りに落ちてしまうのが一番楽なんだろうけれど、観ていた側の私よりよっぽど疲れている筈の征十郎が隣にいるからそれも憚られるし。
と、思ったら。


「ん」


不意に征十郎が自分の左肩をぽんぽんと軽く叩いた。ええと、もしやこれは。


「眠いなら無理しなくていい。肩貸すから」


ですよね。そういうことですよね。
その申し出はとても有り難いし嬉しいんだけども、寝ている間にそうなるならともかく事前に言われるとちょっと気恥ずかしいような。それにやっぱり申し訳ないという考えが抜けない。


「意識なくした人間の頭って結構重いよ」

「そのくらいで痛めるほど柔な肩はしてない。それに、たまには甘やかさせてほしいんだけど」


真顔で言われてしまった。この時点で十分甘い気がする、とは思うもののこれ以上反抗すると更にすごい台詞が飛び出しかねないので大人しく寄せられた肩に頭を預けることにした。じゃあちょっと失礼して、なんてやけに改まった断りを入れてしまったのはご愛嬌というやつだ。

頬に触れる征十郎の肩は自分のものよりずっとしっかりしていて、ああ男の子なんだなぁと今更ながら実感した。別に、女の子みたいと思ったこともないけれど。瞼を閉じれば余計にそれが意識されて、五臓六腑のある辺りがやけにぽかぽかした。
ほんのりと服越しに伝わってくる体温はやさしく、思ったよりも早く眠りに絡めとられそう。それがなんだかひどく愛おしく幸福に思えて自然と口元から笑みがこぼれた。


「どうかしたか?」

「や、こうやって甘えられる人が隣にいて幸せだなってね、思って…」


既に夢現になっているせいで、自分でも何を言ったのかよくわからない。
それでも微睡みの中で僕もだよと囁く慕わしい声が確かに聞こえて、今度こそ緩やかに意識を沈めた。







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