「すまんなまえ、…待っとったやろ?」 「そ、そんなことないですっ!」 髪をくしゃりと撫で付けて、微笑みかけられると俯いて顔がまともに見られない。かっこよすぎるのも、罪っていう言葉があるけれど、それはもうこの人の為のものだといっても過言ではない、と思ってる。 「何でそんな可愛え反応するん」 「……可愛くなんかないです、」からかわんといて下さい、と呟くとすまん、と気持ちの込もっていない謝罪が返ってきたので、気付かれないように頬を膨らませた。その所為か、可愛えのは嘘やないんやけどなあ、と言ったのには気付けなかった。 「…携帯鳴ってるのお前のとちゃうん?」 「本当だ、誰からだ、ろ…あっ!」 「これ、落ちたで。あー…切れとるわ」 ちりん、と小気味の良い音がしたかと思った途端、勢いよく引っ張り出しすぎたらしく、付いていたキーホルダーが取れてしまっていた。 「…すみません。蔵先輩から貰ったのに」 誕生日に貰ったそれは、糸の部分が切れてしまっており、付け直せなさそうだった。先輩から受け取ってぎゅっと握り締めた。 「はは、気にせんとき。今度一緒にどっかいったときにでも揃えよか」 自身のポケットから取り出した携帯を見せた。 もう一回ごめんなさい、と謝ると先輩はバツが悪そうだった。 何かを思いついたように、なあと話しかけられる。 「そういえば、キーホルダー千切れるとあれやで」 「……はい?」 「だから、幸せになれるらしいんやて!」 キーホルダーが壊れると幸せになれるということだろうか。 「迷信…ですか?」 「ちゃう、ジンクスや!」 自慢げに主張するが、いまいち迷信とジンクスの違いが分からない。 「それも、壊れたときに一緒におる人と、や」 「……っ、そうなんです、か…っ!」 ああ、もう。唇を噛んで俯いても耳まで赤いだろう、多分バレている。体温が0.5℃は上がっている気がする。 それでも変わらずに笑っているだろう先輩を睨む気にはなれなかった。 「蔵先輩は、意地悪…ですっ、」 「さよか?そんなつもりはあれへんのやけど…」 「好きな子には、悪戯しとうなるっちゅーやつや。」 恥ずかしげもなく言い切る彼に、敵う日は多分一生来ないんだろうなと、いとも簡単にするりと指を絡めてくる手に伝わらないように思った。 |