「……練習、試合?」 「はい。カントクが黄瀬くんのいる海常と試合を組んだそうです」 「そっか……」 黒子から告げられた報告になまえは静かに視線を落とした。 誠凛高校バスケ部の監督はひとつ年上の女子生徒、相田リコが務めている。黒子から聞く限りとても優秀な人だとか。 「頑張ってね」 「なまえさん」 「私は見に行けないから」 黒子の言葉を遮って、なまえは首を左右に振った。 入学式の翌日、バスケ部を見学しに行った。ボールを弾く音、バッシュの擦れる音。それらを聞く度に身体が震えてしまう。 結局、なまえはどこの部活にも所属していない。 自分でも情けないと思う。だが、それほどまでになまえの心には埋まらない溝が出来ていた。 「黄瀬くんもなまえさんに会いたがると思いますよ」 「えー?あははっ、ないない。黄瀬くん絶対私のこと嫌いだもん」 黄瀬涼太。二年からバスケ部に入って、青峰によく懐いていた同級生。 青峰のことで何かと張り合われていたような気はするが、好かれているような記憶はまったくない。 「ごめん、黒子くんにそんな顔させるつもりじゃなかったの」 目の前に立つ黒子の表情は心配そうに眉を潜めていて。なまえは苦く笑って黒子の肩を叩いた。 「私のことは気にしないで?黒子くんは、バスケを思いっ切り楽しんでいいんだよ」 「ボクは」 そんななまえの手を握って、黒子は真剣な眼差しでなまえを見る。 「なまえさんも一緒でなければ、嫌です」 その視線から逃げるように、なまえは目を逸らす。 「……ねえ、黒子くん」 胸元のペンダントを握り締めながら、消え入りそうな声で呟く。 「私ね。また…楽しそうにバスケをする大輝が見たいんだ。これって、ワガママかなぁ」 「そんなこと、ありません」 ボクも、同じです。 そう言った黒子の声は微かに震えていた。 記憶の中の貴方はあんなに楽しそうなのに、どうして現実はこうも優しくないのだろうか。 勝手に怖がって、一人で悩んで、逃げて。 そんなことをした癖に、未だに青峰大輝という男の存在を忘れることが出来ない自分。 机に置いたコルクボード。そこに貼られた一枚の写真。 無邪気に笑うバスケ部のレギュラーたちの姿を写したものだ。 なまえは未だ、それを剥がせずにいる。 |