住む世界が違うと、そう思ってた。 「何考えてんの?」 そんな人が、こんなに近くに居る。 自分でもどうしてこうなったのか未だにわからない。 馴染みのコーヒーショップの目の前の席で頬杖をつく持田さんをぼんやり眺めながら頭の中でいろいろ考えてみる。 でもどう考えても私と持田さんに接点があるはずがなかったのだ。 それが、どうしてこうなったのか。 考えれば考えるほどわからなくなる。 「…いつになく余裕じゃん」 問いかけに答えなかったことが気に入らなかったらしい。 少し不機嫌そうな目で私を捕まえる。 「…何考えてんの?」 もう一度、同じ問いかけ。 「…持田さんのこと、」 「…ふーん?」 正直に答えてみたものの持田さんはさほど興味がなさそうに私の髪をいじりだした。 「持田さん」 「何?」 「持田さん、忙しいのに何で私なんか構うんですか。折角のオフなんだしゆっくり休んだらいいのに」 「…お前はさぁ」 ため息をつきながら更に不機嫌そうに目を細める。 「俺がそうしたいからわざわざ、こんなとこまで来てるんだって気付かないの?バカなの?」 「はぁ…なんかすみません」 そう言われてもどうして私に構うのか、その理由が見つからなくてわからないんだから仕方がない。 考え込でいる私を見て舌打ちをして、持田さんは急に立ち上がった。 「持田さん?」 持田さんは何も言わずに私の腕を引っ張って店を出た。 ズンズンと前を歩く持田さんと私のリーチが違うからついて行くのに必死だ。 駐車場に停めてあった車の助手席にポイと投げ入れられてそのままドアを閉められる。 運転席に乗り込んだ持田さんがやっと口を開いた。 「…気付けよバカ」 「え?」 「何で、この俺が、こんなにお前に構うのか」 グイとシャツを引き寄せられて、 「っ!?」 「…こういう事」 唇を奪われた。 「返事は?」 吐息がかかるほどの至近距離で、不機嫌そうな顔で尋ねられる。 そんな事言われてもこの短時間でいろんなことがありすぎて頭がついていかない。 何も言えずにいると、また舌打ちをされた。 「…、」 「…はい?」 「俺だけを見てればいいのに」 こんな表情、初めて見た。 苛ついたような、だけど切羽詰まったような。 いつも余裕そうに振舞う姿しか見ていなかったから。 「持田さ…」 名前を呼ぼうとしたらそのまま抱きしめられてどんな顔してるのかわからなくなった。 「…俺はこんなに、」 耳元にかかる、声、吐息。 もう逃げられないと、近くに感じる熱にぼんやりとそう思った。 吐息ひとつで世界が震える そんな顔する貴方を、わたしは知らない。 こんなに、お前のことが好きなのに。 …いい加減気付けよバカ。 |