第4回 | ナノ
 隣で眠るその白い首にそっと手を掛けてみる。すると無意識か、彼女は眉を歪めた。このまま殺してしまおう、だなんて特に考えていなかった僕はそのまま首から手を離す。
 安らかに眠る彼女はついさっきまでの自分の命の危機(僕が与えたものだったけれど)なぞ気にしていないようだった。もしかしたら本能的に、僕だと感じ取って危機ではないと判断した結果なのだろうか。もしそうだったらいいのにと思った。だってそうならば、彼女にとって僕は心を許せる人間ということに等式を当てはめられるからだ。
 そこでふと僕は彼女みたいに、無意識の無抵抗を決め込む相手は他にどれほどいるんだろうと気になった。
 そう考えると、思わず目眩がする。もしかしたら彼女にすら抵抗してしまうのでは!いや、と首を振る。彼女のすることならすべてを受け止めたい。日頃からそう考える僕が彼女に抵抗なんてするはずがない。

 これほどまでに無防備な彼女が、この薄汚れた世界に染まってしまわないか。もしかしたらすでにどこかしらが侵食され始めているかもしれない。そんな事を続けて考えて馬鹿馬鹿しくなった。どうやら僕は気がつかない間に風介の中二病的思考が伝染してしまっているようだ。それは少し、いやかなり好ましくない。

「ヒロト?」

 起きてしまったようだ。寝ぼけた眼を擦りながらふにゃりと笑う彼女に心臓がきゅっと音を立てた。片思いの時よりもずっとずっと彼女の事を知った。
 両思いになればドキドキするのから安心に変わるということを聞いたことがあるけれども、それは嘘だと思う。何故なら未だに僕は彼女にこれでもかと言うほど、鼓動を早めさせられているからだ。

「なんでもないよ」

 それにしても普段なら幾ら起こしてもなかなか起きない彼女が自主的(首を絞めかけたとしても)に起きたのは珍しい。

「ヒロトと離れる夢を見たの」

 夢を思い出しては涙眼になる彼女がこれ以上も無く愛しい。所詮は夢であるはずなのに。それでも彼女の中では大きな出来事だと思ってくれているのだろうね。すっごくすごく嬉しいことだ。
 しかしそれ以上に彼女を取り巻く周りの感情が恐い。誰々が彼女に好意を抱いているだなんて事は耳にタコができるんじゃないかってぐらいに聞いてきた。何よりも大好きな家族の中にもきっと慕う人は沢山いるのだろう。

 もしもこれが僕の一方的な片思いで、彼女が僕を好いていないとしたらもっと楽だったのだろうか。彼女の気持ちを疑うだなんてことを、最高級の卑劣を犯さなくても良かったのだろうか。だって、もしそうならば彼女の心移りだなんて心配しなくても良かった。少なくとも嫌だ嫌だ、と首を振っても無理に羽根をもいで籠に閉じ込めるだなんて事をしても良心は痛まなかったはずだよね。

 やっぱり考えが駄目な方向に行ってしまう。この関係が支配ならもっと甘くて爛れて楽だったのにね。
 そんな事を考える自分に嘲笑を送った。
 馬鹿馬鹿しいにも程がある。だって、僕は彼女に愛されたくてたまらないのだ。そうでなければ、甘い甘い支配を捨ててまでこうやって隣に立とうとは思わなかったはずなのにね。

 再び眠りに付いた彼女の頬にキスを。今度は良い夢が見えますように。
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