第3回 | ナノ
「サイは本当に絵が上手いね。」

僕が描いた絵を掛け布団の上に広げて彼女はそう言う。全て、毎日ここに通う度に描いたものばかりだ。彼女を描いたり、窓の外から見える風景を描いたり、時には、テレビに出てくる芸能人を描いてくれだなんてリクエストされて、描いたりしたものまで。

彼女は内臓関係の病にかかっていた。三ヶ月前大手術の話が上がって、医者は重々しい口調で、上手くいく確率は五分五分だと言っていた。大抵の人は死ぬ確率を先に考えてしまうから怖気づくようなものだけど、彼女は医者の目をしっかりと見つめて、手術してください、と言った。そのときの彼女の目から感じ取れた意志の強さは、その場に居た全ての人を圧倒させるくらい、強い光があった。それでもやっぱり死ぬのは誰だって怖い。医者は全力を尽くすよ、と顔を引き締めて去って行ったけど、彼女が僕の手を握る震えは、一向に去らなかった。そのとき、ナルトならなんて声を掛けてあげるんだろう。サクラならどんな行動を起こすだろう。僕はただ、彼女の手を握ることしかできなかった。そのときに感じた胸の辺りの疼きとか苛立ちを、歯痒さだとか悔しさだと知ったのはもっと後の話だ。

手術はその話が上がった一ヶ月後に行われた。結果として手術は大成功だったらしい。ただ、私生活に復帰できるだけの体力や、リハビリなどで、彼女はまだ退院できていない。治ったと思ったのに、と口を尖らす彼女の反応はもっともだと僕は思うけど、担当医の話だと病気が病気なだけに、様子見なんだとか。でも、担当医の言っていることも僕にはわかる気がするんだ。彼女の細い腕や、こけた頬、点滴なんかを見ると、まだ病院に居た方が良いんじゃないかって思ってしまう。彼女には言ってないけど。

最近は二人で、退院したら何しようかなんてばかり口にする。それが飽きたら、ナルトが任務でドジを踏んだ話をしたり、僕の口が滑ってサクラを怒らせたことなんかの話をする。彼女は外には出れないから、そういう話を僕から聞くしかない。だけどそれもきっともうすぐ終わるだろう。後一週間で彼女は退院できるから。彼女の元に通うのが僕の日課となった今日び、少し寂しい気もするけど、彼女の為を思ったらなんてことはない。これは友情愛、というものではないらしいんだけど、彼女は友情愛だと勘違いしてるみたいだ。実のところ、僕も二週間前までそう思っていた。彼女に「サイは私のところに毎日来てくれるよね。さすが私の親友だわ。」なんて言われて、ああ、そうか僕は君が親友だから毎日ここに訪れるのかと思っていたんだけど、友人たちにその話をしたらやんわりと否定された。親友だからという理由で僕は彼女に会いに来るのではないと。気づいてしまったら、思い返した毎日がとても大切に感じた。思い出だけじゃない、彼女のことも。それが恋だってばよ、なんて言った友人は笑って、僕の肩を叩く。ああ、そうか、これが、

「ふあ〜…ぁ。サイ、私眠くなってきちゃった。ちょっと横になってもいい?」

「え?……ああ、うん。僕はまだ少し、ここに居るから。」

「……ありがとうね、サイ。」

僕の手を握りながら彼女はそう言う。握られた手に少し力を込められたのを感じながら、僕は頭を振る。君がお礼を言うことはないんだ。寧ろ、お礼を言わなきゃいけないのは僕の方だ。僕は知っての通り、人との付き合いが不器用で、場の空気を読むことが不得手だ。言葉の意味は知っていても、それを相手に言って良いのかどうかの判断が人より劣っている。自分でも重々承知してるつもりなんだけど、それでも相手を不快にさせてしまうことはしばしばだ。そんな僕に彼女は優しく接してくれた。失礼な言葉を言ったらちゃんと注意してくれたし、謝れば快く許してくれた。人との付き合い方まで、ちゃんと教えてくれた。ありがとう。それは僕のセリフだ。
そう思ったら、なんて言うんだろう。入れ物から液体が突然溢れだしたような。多分、これはナルトの言葉を借りるなら、彼女のことを、好きだと思う気持ちだ。気づけば僕は彼女の手を繋ぐ手を上に持ち上げて、空いてる方の手で、彼女の肘を持ちあげていた。僕の行動を見てきょとんとする彼女に目もくれず、次に僕は彼女の上腕に口づけていた。

「…なっななななな、なにしてんのサイィィィ!!あああ、あんた、それ、意味わかってやってんの!?ききき、キスしたのよ、あんた!私に!!」

「うん、そうだね。」

「うんそうだねって…あのね、ききき、キスっていうのは、好きな人にするのよ。」

「うん、知ってるよ。だからキスしたんだ。」

聞いて、口を開き、固まる彼女。おーい、と目の前で軽く手を振れば、彼女は急に口を閉ざして、耳、顔、終には首まで真っ赤にさせた。なんだかそれは茹でられた蛸を思わせるようで僕は少し笑ってしまった。すると彼女は僕と手を繋いでいない手で顔を隠す。いくら彼女の名前を呼んでも、彼女は返事しないし、腕をどけてくれない。僕、悪いことはしてないと思うんだけど。あ、もしかして。

「もう寝たのかな…。」

「………馬鹿。寝れるわけないでしょ。」
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -