わたしは、嵐山くんが、だいすきだ。 どこが好きかというと、たとえば、みんなに優しいところとか、意外と男気があるところとか、本当に楽しそうに笑うところとか。 「嵐山くんが元気なら、それでわたしは幸せだよ」 うそじゃなくて、本当の本当にそう思ってるのだから、嵐山くんという人はすごい。こんなにも誰かの幸せを願えるなんて、むかしのわたしは知らなかった。 「お前は健気すぎる」 「嵐山くんにたいしてだけだよ」 「好きな男には尽くすタイプ?」 「うーん、どうなんだろう。やっぱり嵐山くんだから、だと思う」 「ベタ惚れだな〜」 じゅっと吸ったストローから流れ出したカフェモカが口の中に広がる。たまたま会った迅くんと入ったオシャレなカフェは、なんだかわたしには場違いなような気がして恥ずかしい。 「ま、アイツに飽きたら俺のとこおいでよ。お前なら大歓迎」 「よく言うなあ、その気なんかないくせに」 「はは、ばれた?」 迅くんがわたしのことを友だちとして気にしてくれてることは知ってる。けど、それはあくまで友だちの枠を出たものではない。わたしたち、意外といい友だちなのだ。こう見えて。 「先輩は、だらしない男性が好きなのだと思っていました」 「え、どういう意味?」 「そのままの意味ですが」 後輩の木虎ちゃんはわたしのことを、だめんずウォーカーだと思っていたらしい。だらしない男性って、なんだろう。たとえば、太刀川先輩みたいな私生活がちょっとアレな人だろうか。それとも、迅くんのようにセクハラがひどい人? 「先輩は何かと面倒見がいいから、そういう男性と相性が良さそうだと思っただけです」 「木虎ちゃん、わたしのことそんな風に思ってたんだ」 「…何かおかしいですか?」 「ううん、嬉しいなって」 彼女はけげんそうな顔で首をかしげた。分からなくてもいいよ。わたしが分かっていれば、それでいいんだよ。 そりゃあネイバーはこわいけれど、ボーダーのお仕事と大学の履修をどっちもこなすのも大変だけど、わたしはここにいられてよかったと思う。木虎ちゃんに会えて、迅くんに会えて、それから、嵐山くんに会えるから。 「やっぱり嵐山くんの後輩はひときわいい子だね」 「おーい、嵐山くーん!」 食堂で見つけた大好きな人に、思わず手を振って叫んでしまった。まわりからの注目にはっとして口を両手で押さえてももう遅い。嵐山くんはというと、ちょっと困って苦笑いをしていた。 「ご、ごめんね、つい」 「いや、いいよ。いつものことだろう?」 「いつもごめんね……好きな人を見かけると、ついね」 「はは、俺すごい好かれてるな」 本当にそのとおりなんだけど、いまいち正しい意味に伝わってる気がしない。まあ、それでもいいんだけど。嵐山くんが困るなら、わたしの下心なんてないほうがいい。この人が笑っているなら、それがいい。 「相席していいかな?」 「もちろん」 嫌な顔一つせずに頷いてくれるところが好き。この人が笑っているだけで、心が軽くなる。たぶん、嵐山くんが彼女を作ってラブラブしてたら、そりゃすっごい悲しいし、自分でも引くくらい泣くと思うけど、結局は嵐山くんが幸せならまあいっか、で落ち着くと思う。 米屋くんや栞ちゃんみたいなハングリー精神のかたまりみたいな肉食系からしたら、ありえない!らしいんだけど。 「ふふ、じゃあ買ってくるね」 「カバン見てようか」 「うん、ありがとう」 彼にカバンをあずけて、食券機のほうへ歩き出す。混んでないと、いいなあ。はやく嵐山くんとごはん食べたい。 「あ、今日のオススメはエビフライ定食らしいぞ!」 背中から飛んできた声にくすりと笑みが漏れた。嵐山くんが言う、なんでもない台詞がどうしようもなく愛しくて、おかしい。やっぱりわたしの幸せはこの人の中にあるらしい。 エビフライロケットできみの街まで |