私と彼はある酒場で出会った。 弱いお酒をチビチビ呑んでいた隣にたまたま隣に座ったのが彼だった。 私達は可笑しいくらいに好きなものが一緒だったりし、すぐに意気投合して恋に堕ちた。 彼女、彼氏という関係になり暫く経ったある日のことだった。 彼から甘い匂い、香水の匂いがした。 あの人は香水なんかつけない、ましてや女物のような匂いのものなんてもってのほかだ。
「どうかした?」とケロッと言うので「ううん、なんでもない」と返した。
それからというもの、彼は帰る度に甘い匂いを付けたまま帰ってきた。 大体の予想はできていたが、それでも別れを告げることは出来なかった。 私が心底彼を愛している、大袈裟だが、彼が居なくてはきっと生きていけない、 そう思い込んでいたからだ。 そんな私に転機が訪れた。 仕事だ、と言って出掛けた彼を見送った日の日暮れ頃に彼と出会った酒場へ行った。 隣に住んでいるおばさんから、「今は大きな海賊船が港に留まってるから酒場やバー、カジノは気を付けな」と言われていたのを思い出した。 来てしまったしまぁいいか、とそのまま足を進めた。
あの時の席に座り、少し強めのお酒をチビチビ呑んでいると「隣、失礼するよい」と奇抜な髪型をした男が隣に座った。 天辺だけある髪の毛についつい目がいってしまう。
「頭に何か付いてるかい?」 「い、いえなにも…」
お酒を呑もうとすれば店主に止められた。
「なまえちゃんその辺にしておきな」 「いーのいーの、大丈夫」
ニッと笑ってみせ、お酒を呑んだ。
「迎えに来てもらう?」 「いーの呼ばなくて」
一杯、また一杯と数がどんどん増えていく。
「なまえサン、大丈夫かい?」
隣の男が心配そうに私を見た。
「ありがと〜私は大丈夫〜」
親指を立て大丈夫とアピールするが男は眉毛を下げた。
「店主、なまえサンと俺の代金ここに置いておくよい」
奥から「毎度ー」と店主が声を上げ、金髪さんが肩を貸してくれた。
「え!?あ、あのっ、悪いですっ私お金持ってますし…」
声をあげれば頭に響き、思わず顔を歪めた。
「大丈夫かい?あの事なら気にしなくて
いいよい、しっかしあんなに呑んでなにか嫌な事でもあったのかい?」 いつもなら初めて会った人に愚痴を溢したりはしないけれど、アルコールがまわっているせいか、口に出してしまう。
「…と言う訳なんですよ」 「よく我慢してたねい」
マルコ、という彼は相槌をうってくれた。 海賊だと言うマルコさんは「怖くないのかい?」と言ったが、「全くそうは思わない」と返せば笑ってくれた。
「もー我慢の限界なんですよ〜このままどっかに行きたいです」
目の前には楽園とも言える私の家。 ピタリ、とマルコさんが足を止めた。
「マルコさんどうかしましたか?」
顔を向ければマルコさんはとても真剣に私を見ていた。
「どっかに行きたいかい?」 「はい、彼が居ないどこか遠くへ」 「連れていくよい」
フワッと持ち上げて横抱きにされ、来た道をUターンして港へ向かう道を歩いている。
「マルコさん歩けますよ、下ろしてください」 「酔っぱらってるんだから危ないよい」
何度か言ったがマルコさんは下ろしてはくれなかった。
わたしの楽園にさよならを告げる
(私が居なくなった時の彼の反応が見てみたいわ) |