第22回 | ナノ

朝起きたらやっぱり眉上3センチは確実に昨日の晩より前髪が短くなっていた。
「髪の毛濡れてる時に切ったからなあ」
自分の学習能力の低さにため息が出る。今ならこの悔しさをバネにして、昨日のお風呂上がりにタイムスリップ出来る気がしなくもない。これじゃあ笑われちゃうかなあ。
昨日の昼休みに雑誌を読んでいたら前髪短めのモデルさんに田中くんが珍しく興味を持っていたから、思い切って前髪を作ってみたのだけど、やっぱり慣れないことにチャレンジすれば必ず失敗してしまう。ウイッグだったら買い直せばいいけど、地毛じゃそういうわけにもいかない。
もう諦め、メイクだけでもあのモデルさんに似せようと何度も雑誌とにらめっこをして顔面工事で誤魔化した。
髪型もメイクも変えちゃってなんか失恋したみたいだ、ワイシャツに腕を通しながらそんなことを考える。片思い中なのにおかしい話でしょ。

「メイク濃いな」
登校一番、太田くんが私の変化に気付いた。
「なんか変なもんでも食ったか」
私より頭一つでかい太田くんに顔色を伺われると、傍からすればメンチ切られてるように見えそうだ。
私はへへ、と笑って短い前髪を整える。
「元気だよ」
ちょっと失敗しちゃったけど。気分だよ、太田くんにそういうと、そうかとあっさり引いてくれた。きっと心配性の彼だから下手に私の野望のことを伝えてしまえば、ややこしいことになってしまうに違いない。
そして、気だるけそうだけどもいつも私より早く席についている田中くんにおはようと挨拶をして、その斜め前の自分の席につく。何気なく、何気なく、普通に。
いざ本人を見ると、昨晩からの私の行動が「いかにも田中くんの気を引こうとしている」のがまる出しで、思い出してただ恥ずかしく思えてきた。平然を装うのも限界がきて、変な行動をしてしまう前に他のことでも考えようと思った矢先である。
「みょうじさん、前髪切ったんだ」
田中くんが珍しく話しかけてきた。ちょっとまって心の準備が。ここまで「いつも」じゃないことが起こるとは想定していなかったんだもの。
「うん、ちょっと気分転換に」
やっと作ったぎこちない笑顔を田中くんに向けると、頬杖をついていた彼はふうんと目を細めた。
「それ欲しいかも」
そういったきり、赤面した私を残して田中くんは伏せて寝てしまう。
それってどういう、ことなの。




切りすぎた前髪
(俺も前髪切りたいな……)
(欲しいってなに)

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