ご飯はどうしようかしらと頭をひねる。 机に家計簿を広げた侭頬杖を付いて、昨日のご飯を思い出す。本当に万人に馴染んだメニューだけど、カレーだった。二人分だけ小さくコトコトと温めて、量の少ないカレーを作った。余る事なく、私達二人の腹の奥に消えた。昨日がカレーだったから、と今日は少しでもカロリーの低いというか、さっぱりした物を私の舌が望んでいる。 ─電話、しようかな… 隣においてあった携帯端末を見て、少し悩んで、やめた。彼は何時でも"君の好きにすれば良い、"ばかりだから、何方にしろ返答は無い筈だ。たま〜に、だが、リクエストをしてくれる時があるが。しかし随分珍しい事もあるものだ。何時も漫画に没頭している癖に、ネタでも無くなったのか"出かけてくる"と外へと出かけていったのだ。 そして気が付けば既に夕日が山の奥へと傾いている夕方の時刻。彼は一度ネタが切れるとリアリティを求めて出かける為随分と帰ってくるのに時間が掛かる。婚約して何年も観察して居た私の確かな情報だ。 「露伴も、さっぱりしたものが良いか…」 昨日はカレーというごってりしたものだったし、私も続けてカロリーは取りたくない。洋食が好きな彼が、楽しめて、かつ、さっぱりしたもの。サラダは必須だろう。何か無いだろうか。…サラダ、…サラダ…主食は…白ご飯だけど… 「…あ」 そうだ、コールスローを入れてみよう *** 「ただいま」 玄関のドアががしゃりと開く。 リビングとキッチンは一つの空間で繋がっているが、リビングと玄関を繋ぐ廊下はドアを一枚隔てて居るため、随分音がくぐもって聞こえる。丁度私の方も料理を並べ終わった処でルンルン、最高にハイってやつになっていた。 そのルンルン気分の侭玄関に彼を迎えに行ったら、彼は荷物を下ろしながら少し訝しげに私を見て、"何ニヤニヤしてるんだ、気持ち悪いな"と言った。はーい、とそんな事じゃ薄れないルンルンは、更に彼の顔を"何だコイツ"色で歪ませた。 「何だ、もう出来てたのか」 「昨日カレーだったし…さっぱりしたもので固めてみたの」 「…って言っても塩胡椒のスープは少し重くないか」 「ごめんなさい、お母さんの料理の賜物よ」 ふー、と少し面倒臭そうに露伴は息を吐いて椅子を右手で引いた。荷物も足元に置いたままで、早速頂きますと呟いてご飯を咀嚼し始めた。意外にも彼が箸を伸ばしたのは、今日一番に思いついたコールスローだった。 細切りのキャベツに、ツナをのせてトマトを軽く輪切りにして、アクセントしてのせた。けれど、酢を少しだけ多く入れて、すッとする様に考えてみた。料理のレシピをネットで見たら、果物をのせたりするらしいけど、…ううん、ご飯に果物は無いなー、酢豚とかならわかるけれど。 「…ふん、中々良いんじゃあないか」 「えッ本当?ありがと、」 「けど少し酸味がききすぎだな。鼻が痛い」 「あれ、入れすぎたかな、ごめんね」 また彼はふん、と鼻を鳴らして他のご飯に箸をずらした。ちょっと入れすぎたらしい、次から気をつけないと。どれだけ酸っぱいのか、自分の口にも運んでみた。ああ、彼の言うとおりだ、少し鼻が痛い。もしかして質量を間違えたのだろうか。確かに少しだけ多く入れたけど、鼻が痛くなる程入れた覚えはない… まあ良いか。取り敢えずは食べてくれているみたいだし、残せば私が食べれば良い。でも私の作った料理に、一々文句(なのか?)を付ける露伴ではあるが、荷物を自分の仕事部屋に置きに行かないほど、楽しみにしてくれている事は、何となく判る。 「なまえ」 「ん?」 「明日は、和食が良い」 「…珍しい。」 「良いだろう、僕が何を食べようったって」 「勿論よ。じゃあ食べたい食材は?」 最近ちょっと珍しい行動ばかりしているけど、嬉しいから何も言わない。珍しく出かけてみたり、珍しく和食が良い、って言ってみたり珍しく"なまえの好きなもので良い"って言わなかったり。 今の旬の食べ物は何だったかしら、と頭をひねった。 |