第21回 | ナノ
わたしは絶対に悪くない。非は御子柴くんにあるのだ。なんて自分に言い聞かせる。嘘だ。本当はわたしが悪い。

事の始まりはこうだ。わたしは家まで一緒に帰ろうと御子柴くんと待ち合わせをしていた。が、遅刻してしまったのだ。しかも30分も。理由は野崎くんと話が盛り上がったからというものである。遅刻した理由を話したら、彼はこれが気に食わなかったらしい。"どうせみょうじは俺より野崎のが良いんだろ!?"とかなんとか言って拗ねてしまった。だって、仕方ないじゃないか、最近連載がはじまったあの漫画、面白いんだから。誰かと話がしたかったんだから。そう言っても聞く耳を持たない彼に、わたしだってカチンときてしまった。

「御子柴くんだって画面の中の可愛い女の子達がいるでしょ」

そうして今の静かな部屋の出来上がり。2人して断固として一言も話さずに家まで帰ってきてしまった。いつもなら御子柴くんがゲームの話をしたり、わたしが友達との話をしたり、とにかく話が尽きないものだから、なんだか落ち着かなかった。そもそもわたしは御子柴くんのゲームの趣味は対して気にしていなかった。わたしだって漫画の中の男の子をかっこいいと思うことだってあるし、テレビの芸能人だって素敵だし。それに御子柴くんはわたしのことを誰よりも好きだって言ってくれたし。…まあ要するに思ってもないことを言ってしまったのだ、わたしは。

部屋の片隅にうずくまる赤髪と、その対角にこれまたうずくまるわたし。ちらりと彼の表情を伺ってみると、怒っているような、泣いているような、複雑な顔をしていた。話しかけたら負けな気がしたし、やることがなくて暇だったから野崎くんに"お前のせいだ"とメールをしたら、"ごめん原稿忙しいから"と会話のキャッチボールの最初のボールすらもキャッチして貰えずメールが途切れた。誰がこんな奴。わたしは千代ちゃんと違って変人を好きになる気は全くない。

そんなわけで携帯をいじっていると、視線を感じた。顔を上げるとやっぱり複雑な顔をした赤髪。が、目があったと思うとすぐに逸らされた。でもこの頃にはわたしの頭も冷えていて、その目がこっちを見ていないのがなんだか寂しく思えてきたわたしが居た。

「…よし。」

この空気に耐えられなかったのはやっぱりわたしだった。男の子(しかも野崎くん、だ)とちょっと話してたくらいで拗ねてしまうような、少し女々しい人だけれども、わたしはやっぱり彼のことが好きなのだ。御子柴くんには笑っていて欲しい。そう思いわたしは立ち上がり靴を履く。目指すはコンビニ。何か甘いものが食べたい、御子柴くんと一緒に。

目的の物を買い終えたわたしは再び家に戻ってきた。そうして目に入ったのは、さっきの位置と変わらずにいる御子柴くんの姿だった。顔は、半分泣いている。

「…え、なんで泣いてるの」
「………みょうじ」

わたしの姿を見た御子柴くんは目を見開いて驚いた表情を見せた。驚くのはこっちの方だ。

彼がほうけてる間にわたしは買ってきたものをお皿に移し、フォークを準備した。赤い苺が乗ったショートケーキ。最近のコンビニはケーキ屋さん顔負けの美味しさだから凄いと思う。

そうしてわたしは再び彼の方を向く。彼の口に一口分、ケーキを突っ込んだ。

「…むぐ!?」
「はは、美味しい?」

そう聞くわたしに彼はじろりと睨みつけてくる。きっといきなりされて驚いたんだろう。そんな彼のことなど露知らず、わたしもケーキを一口食べる。甘い物は幸せな気分にしてくれるから好きだ。

「…一緒に甘い物を食べて落ち着いたら、また話せるかなって」
「はあ?」
「だからね、仲直りのショートケーキなんだよ」

そう言い笑うわたしに、彼は何か言いたげな顔だ。いいじゃないか、美味しいんだから。
でも、本当に言いたいことを言ってない。わたしは改めて彼の目を見つめ、口を開く。

「御子柴くん、ごめんね。わたし別に君の趣味、気にしてないよ。」
「う、…俺だってごめん」
「うん野崎くんに対してのその勘違いは頂けないな」
「う、うるせーな!」

ああよかった。またいつも通りだ。ひとつのケーキを2人で分け合うこの仲が、とても落ち着く。わたしの大好きなこの空間。
そんな時、御子柴くんがわたしに向かってちいさな声で言う。

「…俺、みょうじ出てったのかと思った。」
「え?」
「だから!愛想つかしてお前が出てったかと思ったんだよ!」

そういう御子柴くんの顔は真っ赤で。目は潤んでいた。きっと本当に心配になったんだろうな、だなんて少し嬉しくなる。そしてなんだか笑えてきた。たった数分だけで泣く程だろうか。

「お前っ…!笑ってんじゃねーよ!俺は本気で心配して…」
「御子柴くんって本当に寂しがりだよね」
「…うるせーな」
「だからわたし、ずっと君の側にいてあげるよ」

ねえ、だから泣かないで?わたし、君の泣き顔は見たくないなあ

そうしてわたしは彼の頬に手を添え、涙を拭った。
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