第2回 | ナノ
 部活が終わって帰宅する頃、教室に忘れ物をしたことを思い出した私は閑散とした校内を足早に歩いていた。当然ながら人気はなくて、しんと静まり返っている。きっと夜の校舎って怖いんだろうな、幽霊とかオバケが出そうだなと考えていると数分も経たない内に教室の前に着いた。ドアを開けて中に入れば、夕日に照らされた室内が瞳に飛び込んできた。黒板も天井も壁も机も全部がオレンジ色に染まっている。綺麗だなと思いながら室内を見渡すと、机に突っ伏して寝ている一人の男子生徒が視界の端に映った。私以外にも残ってる人いたんだと小さく呟き、もう少しで暗くなる頃だし起こしてあげようかなと傍に近付くと、そこに寝ていたのは坂田銀時――私が密かに思いを寄せている彼だった。
「………」
 どうやらここで寝てしまったのは日誌を書くのに飽きてしまったかららしい。書きかけの日誌とシャープペンを放り出して夢心地だ。私は忘れもののことを一旦忘れることにして、彼の前の席にそっと座ると、あまり見たことのない寝顔を観察することにした。むにゃむにゃと口元を緩めて、ぐりぐりと頭を腕に擦りつけているそれは、本当に可愛くて思わず笑みを零してしまう。でも可愛いだけじゃなくて、夕日に染まった銀色の髪はキラキラ光っていてすごく綺麗で、いつものおちゃらけた雰囲気は成りを潜めているし、寝顔は可愛いけれどそれ以上にかっこいいなとも思った。教室に忘れ物をしてよかった。もし忘れ物をしなかったら彼の貴重な寝顔を拝めなかったのだから。私はそのまま飽きずに見ていたのだけれど、少しだけ触りたいなという気持ちが沸き出す。見ているだけで充分だと思っていたのに、欲が出てきてしまったらしい。しばらく考えて悩んだけど、彼はよく寝ているし起きる気配がない。たぶんだけど熟睡の域に入っている。だったら少しくらい大丈夫だろうと結論付けて、私は彼の髪にそっと手を伸ばした。
(うわぁー、柔らかい……)
 私の髪とは比べものにならないくらい柔らかくてふわふわしていた。指先に絡まる銀髪は綿あめみたいで、すごく触り心地がよかった。彼はどんなシャンプーを使っているのかな、今度聞いてみようかなと思っていると、私の目は彼の口元に釘付けになった。
「………」
 いやいやこれは駄目だろうと思うけれど、目が離せなくて、引き寄せられるように近付いていく。私はコクリと喉を鳴らした。ギュッと目を瞑り、坂田が起きませんようにっ! と必死にどこにいるか分からない神様に祈りながら顔を寄せた。



君の唇まで、後10センチ

(何してるのお前)
(ひっ…! お、おお起きてたの!?)
(まあね。あれだけガン見されたら普通は起きちゃうでしょ)
(…………)
(で、続きは?)
(へ?)
(ま、しないなら俺がするけど)
(!?)
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