第2回 | ナノ
 一目惚れだった。
 並盛中に新しく転入してきた美少年。
 男子も女子も声を上げる。それ程、彼は美しかった。
 獄寺も、例外ではない。
 しかも、美少年は獄寺の隣に座った。どぎまぎする。
 宜しく、と彼は言った。おう、と連れない返事をした。……本当は、もっと会話をしたかった。でも、緊張かなにかで出来なかった。
 美少年は、自ら人に交わることはしなかった。拒絶でもなく。ただ、彷徨っていた。
 皆、友達になりたいが、躊躇っている。彼は友達を必要としないように見えた。
 ……それは、まるで獄寺のようで。
 同情でもない、なにか。どうしてか、知りたいと思った。
 ――胸が焦がれる。
 それを恋だと知るのはまだ先の話。

 今日も彼は学校を彷徨っていた。屋上だったり、廊下だったり。なにかを捜しているようだった。
 獄寺は、静かに見ていた。ストーカーもどきの、行為。
「ねえ、さっきからなにか用」
 当然、彼は気付いていた。
「獄寺……隼人だよね」
 意外だ。人と関わらない彼が自分の名前を覚えていたことが。
「ダイナマイトを投げ付ける、喧嘩強い不良」
「まあ、確かに合っているけどよ」
 なんだか癪だ。他人と同じくそうとしか見られていないことに。
「……お前、なんで進んで独りになるんだ」
 返答はなくても構わない。ただ、訊きたかった。
「人と関わることはしたくない。お前だって、わかっている筈だ。なあ? スモーキン・ボム」
「!」
 じゃあな、と彼は手をひらひらと振った。
 何故。イタリアでの通り名を知っている――?
 考えれることは一つ。彼は、イタリアにいた。そして、マフィアの世界に関わっていた。
 それなら、行動にも納得がいく。マフィアの世界で過ごせばわかる――
 人間の欲望と汚さと。血と死と。そして、裏切り――。
 同情ではなく、今度は一緒にいたいと思った。
 守ってあげたいと思った。
「獄寺隼人……」
 イタリアでは有名だった悪童。それが、日本にいたとは。
 嗚呼、わかっているさ。
 俺達は――似た者同士だ。
 それから獄寺は、構うようになった。
 今は昼休み。当たり障りのない購買を、彼は食べている。
「俺の通り名を知っているってことは、イタリアでなにしていたんだ?」
「それ、普通訊くか? 誰にでも、訊かれたくない過去の一つや二つあるんだよ」
 苦笑した彼に、小さく謝る。
 まだ、警戒は解けていない。それでもいい。いつか話してくれるまで。
 美少年には、男子がファンとして付いている。
 皆、羨望と欲望の眼差しで見ている。自分からアタックは出来ない。なにしろ、あの獄寺が付いているのだから。獄寺も好意を寄せていることは丸わかりだ。
 美少年は、男子の欲を掻き立てる。殆どの男子がオカズにする。それでも、獄寺がいるため、まだ襲われていない。
 四六時中、二人は一緒にはいない。獄寺は獄寺で綱吉の護衛をしている。彼も又、彷徨っている。
 そこを、ファンは狙った。独りで彷徨っている彼を、襲う。
 予想通り、彼は獄寺とはいない。一人だ。ファンは十人程。力の、人数の差で敗ける筈がない。
 人気のない階段付近。彼は――待ち伏せした。
「さて――お待ちかねの戦いだ」
 彼は気付いている。男に狙われ易いことを。ファンの画策を。
 死角になる部分で、ファンを見る。
 どこ行った? と慌てる男子を尻目に、彼は小さく笑い、現れた。
「はじめまして。欲求不満の名もなき男子達」
 彼は不敵に笑っていた。それが不気味で――美しくもある。
 ゆっくりと、近寄る。ファンは圧倒されていた。だが、襲うと決めた。一斉に掛かった。
「雑魚が」
 そう言うと、彼は瞬きする間もなく、十人程昏倒させた。
 一瞬のことだった。ただ、殴り、蹴っただけ。
 嗚呼――こんなにも弱い。
「俺を襲うなら、もっと強くなってから来い」
 彼は去る。その力を以て。
 この一件は獄寺や教師に伝わった。彼が一方的に責められることはなかった。獄寺が睨みを利かせてからだろう。
 獄寺は、守れなかった自分を責めた。彼が強いからよかったものの、もし襲われていたら……ぞっとする。
 それからは、必要以上に彼と行動を共にした。過保護に、うざったいと思われる程に。
「なあ、獄寺。そんなに俺が心配なのか。獄寺が思っている程、やわじゃないけど」
「わかっているけどよ。やっぱり、不安なんだ。怖いんだ」
「その内、変な方向に行くなよ」
 例えば、監禁とか。
 声に出すことなく、彼は思った。人間は――どう転がるかわからないから。
 獄寺は、まだ告白していない。彼に告白する猛者は、もう獄寺以外いない。
 いつでもチャンスはあった。ただ、この生温い関係を続けたかった。
 守りたい。でも、壊したくない。
 理不尽で、我が儘な感情。
 脈があるかもわからない。
 そう――わかってしまった。
 あの一件で。
 胸が焦がれた――これは、恋だ。
 彼が好きだ。恋愛感情を抱いている。
 不毛な恋かはわからない。
 一目惚れだった。だから――
 この恋に決着を付けよう。
 獄寺は、彼に会うため飛び出した。
 青春は、まだ続いている。
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