一目惚れだった。 並盛中に新しく転入してきた美少年。 男子も女子も声を上げる。それ程、彼は美しかった。 獄寺も、例外ではない。 しかも、美少年は獄寺の隣に座った。どぎまぎする。 宜しく、と彼は言った。おう、と連れない返事をした。……本当は、もっと会話をしたかった。でも、緊張かなにかで出来なかった。 美少年は、自ら人に交わることはしなかった。拒絶でもなく。ただ、彷徨っていた。 皆、友達になりたいが、躊躇っている。彼は友達を必要としないように見えた。 ……それは、まるで獄寺のようで。 同情でもない、なにか。どうしてか、知りたいと思った。 ――胸が焦がれる。 それを恋だと知るのはまだ先の話。 今日も彼は学校を彷徨っていた。屋上だったり、廊下だったり。なにかを捜しているようだった。 獄寺は、静かに見ていた。ストーカーもどきの、行為。 「ねえ、さっきからなにか用」 当然、彼は気付いていた。 「獄寺……隼人だよね」 意外だ。人と関わらない彼が自分の名前を覚えていたことが。 「ダイナマイトを投げ付ける、喧嘩強い不良」 「まあ、確かに合っているけどよ」 なんだか癪だ。他人と同じくそうとしか見られていないことに。 「……お前、なんで進んで独りになるんだ」 返答はなくても構わない。ただ、訊きたかった。 「人と関わることはしたくない。お前だって、わかっている筈だ。なあ? スモーキン・ボム」 「!」 じゃあな、と彼は手をひらひらと振った。 何故。イタリアでの通り名を知っている――? 考えれることは一つ。彼は、イタリアにいた。そして、マフィアの世界に関わっていた。 それなら、行動にも納得がいく。マフィアの世界で過ごせばわかる―― 人間の欲望と汚さと。血と死と。そして、裏切り――。 同情ではなく、今度は一緒にいたいと思った。 守ってあげたいと思った。 「獄寺隼人……」 イタリアでは有名だった悪童。それが、日本にいたとは。 嗚呼、わかっているさ。 俺達は――似た者同士だ。 それから獄寺は、構うようになった。 今は昼休み。当たり障りのない購買を、彼は食べている。 「俺の通り名を知っているってことは、イタリアでなにしていたんだ?」 「それ、普通訊くか? 誰にでも、訊かれたくない過去の一つや二つあるんだよ」 苦笑した彼に、小さく謝る。 まだ、警戒は解けていない。それでもいい。いつか話してくれるまで。 美少年には、男子がファンとして付いている。 皆、羨望と欲望の眼差しで見ている。自分からアタックは出来ない。なにしろ、あの獄寺が付いているのだから。獄寺も好意を寄せていることは丸わかりだ。 美少年は、男子の欲を掻き立てる。殆どの男子がオカズにする。それでも、獄寺がいるため、まだ襲われていない。 四六時中、二人は一緒にはいない。獄寺は獄寺で綱吉の護衛をしている。彼も又、彷徨っている。 そこを、ファンは狙った。独りで彷徨っている彼を、襲う。 予想通り、彼は獄寺とはいない。一人だ。ファンは十人程。力の、人数の差で敗ける筈がない。 人気のない階段付近。彼は――待ち伏せした。 「さて――お待ちかねの戦いだ」 彼は気付いている。男に狙われ易いことを。ファンの画策を。 死角になる部分で、ファンを見る。 どこ行った? と慌てる男子を尻目に、彼は小さく笑い、現れた。 「はじめまして。欲求不満の名もなき男子達」 彼は不敵に笑っていた。それが不気味で――美しくもある。 ゆっくりと、近寄る。ファンは圧倒されていた。だが、襲うと決めた。一斉に掛かった。 「雑魚が」 そう言うと、彼は瞬きする間もなく、十人程昏倒させた。 一瞬のことだった。ただ、殴り、蹴っただけ。 嗚呼――こんなにも弱い。 「俺を襲うなら、もっと強くなってから来い」 彼は去る。その力を以て。 この一件は獄寺や教師に伝わった。彼が一方的に責められることはなかった。獄寺が睨みを利かせてからだろう。 獄寺は、守れなかった自分を責めた。彼が強いからよかったものの、もし襲われていたら……ぞっとする。 それからは、必要以上に彼と行動を共にした。過保護に、うざったいと思われる程に。 「なあ、獄寺。そんなに俺が心配なのか。獄寺が思っている程、やわじゃないけど」 「わかっているけどよ。やっぱり、不安なんだ。怖いんだ」 「その内、変な方向に行くなよ」 例えば、監禁とか。 声に出すことなく、彼は思った。人間は――どう転がるかわからないから。 獄寺は、まだ告白していない。彼に告白する猛者は、もう獄寺以外いない。 いつでもチャンスはあった。ただ、この生温い関係を続けたかった。 守りたい。でも、壊したくない。 理不尽で、我が儘な感情。 脈があるかもわからない。 そう――わかってしまった。 あの一件で。 胸が焦がれた――これは、恋だ。 彼が好きだ。恋愛感情を抱いている。 不毛な恋かはわからない。 一目惚れだった。だから―― この恋に決着を付けよう。 獄寺は、彼に会うため飛び出した。 青春は、まだ続いている。 |