第2回 | ナノ
 ジワジワと暑さが増していく教室。クーラーの壊れた生徒会室に、はたしている意味はあるのだろうか。入り口と、対極にある窓も開け放ち少しでも風を通す。同時に蝉の声も音量を上げ、責務に集中できたものではない。

「あ゛ーつい」

「そうだねー」

 団扇代わりの下敷きが気の抜ける音を出す。人が必死に書類確認を行っている目の前で、生徒会長様は優雅に自家発電である。ちゃっかり窓際を占領していたりもする。少しはその風私にも向けてもらえませんかね。細かい作業でいらいらするし、手汗で書類はめくりにくいうえに書き込みにくい。

「今日レミさんと桜さんは?」

「……ショッピングだって」

 数が多い書類の山から、占領スペースが多い書類の山へと手を移す。ポスターに展示許可の判子を力強く押しつける簡単なお仕事。少しかたがってしまったが、まあ大丈夫だろう。この人の確認は案外手抜きだ。

「ほうほう、こんな暑いなか炎天下を歩きまわるなんて大変ですね。私がこの大量の書類を1人で処理するのと、どっちが大変ですかね」

「ハハハッ手厳しいな」

 手厳しくもなる。休日の急な呼び出しだ。わざわざ制服に着替え学校へ来てみれば、壊れたクーラーと格闘する仙石くんのお出迎え。それも途中で挫折され、自分だけ帰るわけにも行かないからと私の仕事が終わるのを待ってくれている。きっと本音はレミさん達と一緒にショッピングしたいだろうに。今の状況がいかに理不尽か考えていたはずなのに、彼女から友達を優先された仙石くんへと思考が移り少し哀れになった。

「仙石くんはレミさんを守りたいって言ってたよね」

「……それ誰から聞いたの?」

「仙石くんから。隣のコピー室でね、桜さんと話してるの聞こえたんだ」

「……」

「だからね、私の言及からレミさんを守ってみてください」

「守りきれる気がしないな」

 笑い声が再度部屋にこぼれる。だけどすぐに気づけるんだ。あっ、この声笑ってないって。

「第1問、仙石くんはメンクイなの?」

「いきなりきたねー」

 不意に視線をそらされる。これは多少なりともうしろ暗いものがあるらしい。

「別に顔でレミを好きなわけじゃないよ」

「でも選んだ理由は顔でしょ? 弱い子なんて他にもいるよ」

 例えば私とか。それでも、仙石くんに弱い女なんて思われたくもないけれど。逆にレミさんの武器はそれだ。そこがレミさんの強いところでもあって、素直な言動に憧れたりもする。

「付き合いだしたころは美男女カップルなんていわれてもいたけど、高校入ってすぐなんだもん。お互い相手は誰だって良かったんでしょ?」

「なにそれウケる」

 乾いた笑い声。反らされる視線。蝉の鳴き声がジリジリとした暑さをかきたてる。

「キミさ、僕がなに言っても怒らないと思ってる?」

「じゃ第2問、なんで私を呼んだの?」

 生徒会でもない一般生。役員が遊びへ行っている休日だ。

「いつもだったら堀さんに頼んでるでしょ」

「……京ちゃんと2人きりにはなりたくないんだよね」

「私ならいいんだ?」

 下敷きの音が止んだ。私の手は判子を打つことを止めない。目を反らされているうちは、いくらだって見ていられるのに。

「気づいてるんでしょ? だから私を使ってる」

 暑さのせいだろうか。きっと違う、これは視線だ。痛いくらいの視線を感じて目をあげられない。手を止められない。声が震えていれのは、喉が乾いてるせいだけど。

「……」

「……」

「……喉乾いた。なんか買ってきて」

「……そうだね」

 パイプ椅子の軋む音がして、前を足が通り過ぎていく。ああ、せっかく追い込むチャンスだったのにな。詰めていた息を吐き出すとため息になってしまった。慌てて入り口をふりかえるも、もう行ってしまったのだろうか。1人きりの教室にほっとし、少し残念に思った。

「……そうだね、僕はひどい奴なのかもしれない」

 響いた声に驚き再度入り口を見る。誰もいない。そこにはただ、廊下に落ちた影が1つきり。

「だけど、キミが頼りになるんだから仕方ないじゃないか」

 小さな含み笑いをおいて、足音が遠ざかっていった。

「…………レミさんを守れって言ったのに、私を守ってどうすんのさ」

 とうぶん生徒会の仕事は断れない。


12.03.04
―――
最後のは、
本当の笑い声だったから。
あなたの掌で踊り続けてあげる
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -