小さな、かわいらしいお弁当箱。 何故か、朝学校に着くと私の靴箱に必ず入っている。最初は何かの悪戯かな、くらいにしか思っていなかったから手もつけなかった。けれど二日三日、一週間経っても、そのお弁当箱は私の靴箱にちょんと置いてあった。 「ヒメちゃーん、これどうしよ」 「またあの弁当箱か?もう貰っときい。ここまできたらアンタしか貰い手おらんやろ」 「う、うーん・・・」 今日は購買で買う予定だったからお弁当は持ってきていない。昼食代浮くし、せっかくだから貰っておこう。私はその日初めてそのお弁当箱を開けた。中には“食べ終わったら靴箱に戻しておいてください”と書かれたカードと、 「・・・たまご、やき・・・か?」 「いやどっからみても黒い塊にしか見えへんわ!なんやねんコレ!もはやかわいそうな玉子やろがああ!!」 「たこさんウインナーは異様に足多いし、梅干しに沢庵に胡瓜、人参、かぶら、茄子の漬物、ご飯は・・・おかゆ・・・」 「坊主の精進料理か!!」 ええー・・・と正直かなりドン引きした。冷凍食品のオンパレードよりまだマシだと思うけど、これは・・・ひどい。ま、まあ見た目より味、だよね。玉子焼き(仮)を口に含む。「なまえ!?ちょっ、なまえー!!」ヒメちゃんの呼びかけにも答えず口を抑えてトイレに走りこんだ。砂糖を一袋丸ごと溶かしたかのような、じゃりじゃりとした甘ったるい味。玉子の味は・・・まったくしなかった。 〜〜〜〜 あのかわいそうな玉子事件からも、お弁当箱は変わらず私の靴箱に置いてあった。捨てるのもなんだかもったいなかったし、かといってそのままの状態にしておくと私の健康が危ぶまれるのでお弁当箱に料理のアドバイスを書いた紙を挟んでおいた。 その甲斐あって、お弁当箱の中身はだんだんと改善されてきた。今では売り物にしてもおかしくないくらい、綺麗で美味しい。でも毎回たこさんウインナーは異様に足が多くて、口に運んだ玉子焼きはいつも通り、甘かった。 「みょうじ。三者面談のプリント、まだ出していないだろう。早くしてくれないか。校務に差し支える」 「・・・ごめん、まだ親に見せてない」 「まったく、明日には必ず持ってくるように」 昼休みに私のクラスにやって来た生徒会の椿くんは私の苦手な人。正義感強くて美形だけど、とっつきにくいし、何より話し方が刺々しいというか。嫌われるようなことはしていないはず、なんだけど。「・・・みょうじ、それは?」突然椿くんが指したのは私が今つまんでいたお弁当箱。事情を説明すると、途端に椿くんは赤くなった。何故に。 「最初はすっごくマズかったんだよ。吐きそうになった」 「・・・なら捨てればよかっただろう」 「一生懸命作ったお弁当を捨てられるわけないでしょうが。今は結構気に入ってるんだからいいじゃない」 「男が料理なんて、変だろう」 ああ言えばこう言う・・・!私に恨みでもあるのか、椿くんよ。眉間に皺を寄せ、彼を見る。刺々しい言い方もだけど、何よりこのお弁当を作った人を馬鹿にしたことが許せなかった。 「私、料理できる男の人って結構タイプなの」 すると椿くんはさらに顔を真っ赤にさせて固まってしまった。何が恥ずかしかったのか、私にはさっぱりわからない。・・・でもあれ、どうして椿くんはお弁当を作ってる人が男だってわかったんだろう。背を向けて逃げようとする彼の肩をがしりと掴んで、私はにっこりと笑った。 「椿くーん、ちょっといいよね」 「きょっ、拒否権は、」 「あるわけないじゃん」 〜〜〜〜 「まさかお弁当箱の犯人が椿くんだったなんて・・・うん、かなり意外だ」 「だから言いたくなかったんだ・・・」 「ものすごくわかりやすかったんだけどね」 そう言えば「何!?」とびっくりした顔をする椿くん。椿くんは嘘ついても顔に出るタイプなんだね。そういうとこはボッスンそっくりだ。「私、このお弁当作ってる人を見つけたら言おうと思ってたんだけど、」「何だ」 「椿くん、いつも美味しいお弁当作ってくれてありがとう」 「・・・ああ、どういたしまして」 返事をした椿くんは頬をほんのり染めながら眉を下げて困ったように笑った。どうも真正面からお礼を言われることに慣れていないらしい。その時の椿くんは、なんていうかその、ものすごくかわいかった。 甘い玉子焼きとたこさんウインナー (その日から私と椿くんは一緒に昼食をとるようになった) (そしてやっぱり椿くんはかわいかった、まる) (作文かい!) |