「明光くんいいことあったの?」 「んーちょっとな」 実家に帰省して戻ってきた明光くんはどこか吹っ切れたような顔をしていた。理由を聞いてもはぐらかされるだけで不思議に思って首をかしげる。すると、あのさ、と明光くんには珍しく歯切れが悪い。なのでますます不思議に思っていると。 「今度さ、うちに来ない?」 その言葉に、目を丸くする。うちに来ない?というのが、いつもの一人暮らししてる明光くんの家を指してるわけじゃないということはすぐに気がついた。 「両親と、あと蛍に会ってほしいんだ」 「・・・いいの?」 「あぁ、なまえに会ってほしいんだ」 「行く!もちろん行くよ!」 「あ、うん。よかった。でもそんな勢い込まなくても大丈夫だぞ」 「だって明光くんがせっかく誘ってくれたんだよ!」 そうかー?なんて苦笑するけど、断るはずがない。付き合い始めて3年、明光くんが実家に招待してくれたのは初めてで、それってわたしを両親に紹介してもいいって思ってくれたってことでしょう?そして何より、弟くんに会ってほしいって言われたことが本当に嬉しかった。明光くんと弟の蛍くんがずっとぎこちない関係であることは明光くんの話からなんとなく察していて、彼が高校生のときの苦い経験をずっと抱えているのを知ってる。だから。 「明光くん、よかったね」 思わず笑みがこぼれたわたしに、そうだな、とちょっとだけ泣きそうな顔で笑った明光くん。彼の苦い記憶がなくなったわけじゃない。それでも、少しでも前に進めてるなら喜びたいと思った。 *** 初めて会った弟の蛍くんは明光くんよりも背が高くて、高校生ということで明光くんと比べれば幼い顔している。でも、顔の造りとかはやっぱり似てて、兄弟なんだなぁ、と思った。 「兄ちゃんのどこが好きなんですか?」 「わー直球だね・・・」 明光くんもけっこうはっきりと言いたいことを言うほうだけど弟くんもかなり直球だなぁ、なんて思わず苦笑してしまう。弟くんからのせっかくの質問に答えないわけにはいかないけど、明光くんの好きなところを改めて聞かれるのって少し恥ずかしい・・・、と照れながら明光くんの好きなところを考える。 「そうだなぁ。明光くんってさ、かっこいいんだよね。身長高いし顔イケメンだし」 「はぁ・・・」 「あとね、わたしはバレーしてる明光くんが好きなんだ。挫折も、苦しいこともたくさん経験して、それでもやっぱりバレーが好きで、逃げずにバレーに向き合ってる。そういうひたむきな姿を見てるとね、やっぱりかっこいいなぁって思っちゃうな。気が済むまで本気の場所にいたいっていう明光くんの気持ち、そばで応援してたいなって思うの」 「・・・そう、ですか」 「蛍くんもバレーやってるんでしょ?楽しい?」 「べつに・・・ふつうです」 蛍くんもバレーをやっていると明光くんが言っていたので聞いてみると、ふいっと横を向いてしまった。 「そっかぁ・・・じゃあ、バレーを楽しめるといいね」 もしかしたら、悔しさが残ってしまうかもしれない。挫折だってあると思う。それでも、蛍くんにとって満足できるバレーができますように、そう祈るような気持ちで思った。 *** 「ねぇねぇ明光くん」 「ん?」 「蛍くんっていい子だね」 「そうだろー」 ちょっと誇らしげな顔をする明光くん。まぁ生意気だけどなーとぼやく姿にふふっと笑いがもれる。ぎこちないときもあったかもしれないけど、お互いのことを気にかけている仲のいい兄弟なんだなぁって思ったよ。 「春高楽しみだなぁ・・・『蛍くん頑張れ』って書いた手作りの横断幕とか作って行こうか?」 頭一つ分以上高い身長の明光くんにぎゅうと抱きついてそう言えば、明光くんは一瞬だけ驚いた顔をしたあとふはっと笑う。 「蛍嫌がりそうだなー」 「え、だめ?」 「あいつそういう目立つことされるの嫌いだからさ」 「そうなの?」 「そうそう、絶対眉間にしわ寄せてムスってした顔すると思う」 あはは、と笑いながらわたしの頭を撫でる明光くんの大きな手にそっと頬を寄せる。優しい目をして、どうした?とたずねる明光くんに、勝てるかな?と小さく問いかけた。 「蛍なら勝てるさ。きっとどんなやつだって倒せる」 強い眼差しでそう言い切ったその顔を見つめる。そうだね、明光くん。きっと大丈夫。だってあなたの思いは大事な弟に届いてるから。 |