第19回 | ナノ
「昼間の太陽は凄かったなァ」
「本体は情けねえ奴だったけどな」


パチパチと燃える木を少し愛おしそうに見る仲間。
砂漠のど真ん中で今日は夜を明かす事になった。テントも寝具も在る故自身としては困らないのだが、どうやら女と言うものは違うらしい。本来ならこの旅に女は混ぜないつもりだった。そもそも、あのジジイが承諾しないだろう。

しかし、今現在その女が混ざっている。

其奴はDIOの手下でも何でも無い只のクラスメイトだった。やたらと俺に関わってくる女だった。…否、今もだが。それでも何処か、俺に纏わり付く鬱陶しい女とは雰囲気が何処か違っていて、何故か関わりやすいと思った人間だった。

其奴は、仲間の事を一番に考える女と形容しがたい女で、一言で言うなら男勝りでドライな奴だ。仲間の事を大事にするが、例え死んだとしても"仕方がない"と片付けられる奴であろう。"一番に現実を見る"女だ。理想ばかりを兼ね添えた女とはどうも違う様だ。



「暑くねぇの?」
「あ?」
「承太郎さ、よく学ラン着ていられるなァ」
「てめえは転校した時の侭の制服だろ、それ…」
「うん。冬でも夏でも半袖だ」



それだけ言うと、其奴はバッグから持参していた水を取り出し、一気に飲み干した。ぐくり、と喉奥の水を吸い込む音が此方迄聞こえてくる。その動く喉元についつい眼が行ってしまう。好きなのか、と言われてもどうかは解らない、が。

大分着て古したその半袖の制服が、火の光の御陰なのが、随分真新しく見えた。ポルナレフも花京院も、既にテントの中で睡眠を貪っているこの時。どうしてだか、"たった二人"だけの時間に見えたのはきっと俺だけだろう。

その誤認を晴らす為其奴に話しかけた。




「夜の砂漠は唐突に冷える。寒くないのか」
「慣れるさ。私はどちらにも強い方でね」
「砂漠の直射日光は避けた方が良いとも聴くが」
「んー、じゃあ承太郎の上着貸してよ」
「無理な頼み事だ」



"だろうなァ"とけたけた笑いながら其奴はぐっと足を組んだ。
スカートから除く足はとても長く綺麗だとも思った。何時か言っていた気がする。スカートはひらひらするから好かん、と。



「履いていた方が、綺麗な気がするんだがな…」
「お?何か言ったか?」
「なんでもねえ、寝るぞ」
「もう少し起きとくわ」
「…はあ、やれやれだぜ…」


女一人外にほっぽり出しとく訳にも行かねえだろ。
そう想い俺はもう一度自分が座っていた石に座り込んだ。何だよ、傍に居てくれるのかと嬉しそうに微笑む其奴を見て、ああもしや、此奴も俺と同じ想いなのか、と自惚れたのはここだけの、自分だけの秘密にしておいておく事にした。

他愛も無い話をして、また、朝を迎え様とした。今が夜中だろうが朝が来るのを俺は只管待った。朝が来れば、きっとこの思いも忘れるだろうから。




*
*
*



「ポルナレフ、起きてるかい?」
「あァ、」
「面白い二人だね…」
「早くくっ付きゃ良ーのになァ…」
「ふふ。」



二人が知らない処では、きっと二人の愛を望んでいる人だって居るんだから。



*
*
*


二人だけの本当の夜中
(今日はこれでも、またきっと二人の夜中は本当に来る筈)
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