朝からなんだかむかむかとした気分だった。どうしてだろう、女の子の日が近いのかな。いつもは何とも思わない仗助くんへのアプローチも、今日だけは見たくなくて、いつもは一緒に帰ってるのにそそくさとひとりで帰ってしまった。そうして、あたしは今公園のベンチで誰にもらったか覚えてない、春も夏も秋も一緒に制服の中で青春を共にしたため溶けてビニールに張り付いてしまったイチゴ味のキャンディーと睨めっこをしていた。はあ、本当にあたしってばどうしちゃったんだろう。らしくない。たかだかこんなことでイライラするのは、本当にらしくない。でも多分、この感情はみんな持ってるんだろうと思えばいくらかスッキリした。あたしはビニールを割いて溶けたキャンディーに苦戦しながら、それをぽいっと口に含んで、ガリガリ噛んで飲み込んだ。甘い。そういえば誰かが「イライラには甘いものを食べるといいよ」って言ってたなあ。誰だっけ。こういう喋り方するのはあたしの周りには康一くんしかいないから康一くんかな。いや、でもあたし康一くんからキャンディーもらった覚えないなあ……。テレビで見たんだっけ。うーん、思い出せない。 「あ! なまえちゃん、何で先に帰るんだよォ〜っ。あといつもより不細工だぜェ〜」 あたしが誰に言われたのかうんうん思い出そうとしていると、仗助くんがひょっこり現れて何とも失礼なことを言い放った。「……いつも不細工って言いたいのかな仗助くんは」 じとり睨みながら言えば、仗助くんは慌てて「そういうわけじゃあない!」と言うのだった。じゃあなんだよ。「あー、……えーっと、」 ……ごめんの言葉と一緒に眉間にちゅっとキスが降ってきた。え、なに、仗助くんの柄じゃない。何か変なものでも食べた? 眉間からこめかみ、ほっぺ、とだんだん下降していく。え、ほんとにどうしちゃったの仗助くんてば。嫌なわけじゃないけど、何となくこっぱずかしいような、胃のあたりがむずむずする。 「どうしたの、ねえ」 「…………」 「ん?」 「……寂しかった」 ふーっ、と息を吐いたかと思えばぎゅうと抱きしめられた。寂しかった、だって。本当にどうしたんだろう。今日の仗助くんは甘えただ。「なまえちゃん、今日俺に何も言わずに帰っただろォ〜?」「えっと、」それは。どう説明しよう。素直に言うのもなんだか恥ずかしいし、でも言わなかったら言わなかったで何か言われそうだし、「……ええと」「うん」「し、嫉妬した、から……」言いにくいから小さい声で言ったのに、ぎゅうぎゅう抱きしめられてるもんだから丸聞こえなんだろう。仗助くんは目をぱちくりさせたあと、にやあ〜っと笑った。 「かわいいとこもあんじゃねーか、なまえちゃん」 仗助の唇があたしの唇に触れた。それからぺろりと舐められる。「あま、」「あ、イチゴ味のキャンディー食べたから」「俺には?」「……1個しかなかったの」「ふぅん。ま、いいや、帰ろーぜェ」「うん」 公園のベンチから立ち上がる。自然に繋がれる手に何だか嬉しくなった。「今日の晩飯何かな」「んー、シチュー!」「それなまえちゃんが好きなやつだろォ?」 |